新型コロナショック、危機的状況のコンサートビジネス

「何もかもがカオスよ。アルバムリリースのスケジュールを保留するなどあり得ません。今時はアルバム制作の納期がきっちり決められていて、厳しいリードタイムの中で作業しているのです」 ローラ・ジェーン・グレイス(リードシンガー/アゲンスト・ミー!)

DIYやインディーズのアーティストもヘッドライナー級のメジャーアーティストも、皆が慌ててスケジュールを調整している。「何もかもがカオスよ」と、アゲンスト・ミー!のリードシンガーでギタリストのローラ・ジェーン・グレイスはローリングストーン誌に語った。「ウイルス騒ぎの前にヨーロッパのブッキングエージェントと話した時は、“今すぐに先のことまで準備しておかなければならないぞ”と言うので、私は“2021年11月のコンサートまで決まっているわ”という感じでした。先の先までスケジュールを入れて活動している人間にとって、突然のキャンセルは厳しいです。SXSWなどの場合、1年以上前から準備を始めます。ひとつの計画を一から練り直して再スケジュールすることで、他の計画全てがドミノ倒しのようにならないことを願うのみです。これ以上のキャンセルは勘弁して欲しいし、この先どうなるか皆が注視しています。」

グレイスによると、他のアーティストもウイルスがツアーに影響するだろうと考えているという。「アルバムリリースのスケジュールを保留するなどあり得ません。今時はアルバム制作の納期がきっちり決められていて、厳しいリードタイムの中で作業しているのです」とグレイスは言う。「アルバム制作を進めてきたバンドがプレス作業を5ヶ月間止められた上に、リリース予定日が1ヶ月後に迫っているという状況をどうしたらよいでしょう。アルバムリリースやツアーのスケジュールは、よっぽどのことがない限り変えられないのです。何年もかけて準備してきたものを無駄にはできません。」

アーティスト以上にプロモーターも、コロナウイルスによる影響を感じ取っているようだ。法律事務所のKing, Holmes, Paterno and Berliner LLCのマネージングパートナーであるハワード・キングは、コロナウイルスによる影響が、一部のビッグなアーティストを除く全てのアーティストに悲惨な状況をもたらす可能性がある、と指摘する。Live NationやAEGなどの有力プロモーターでない限り「コロナウイルスの影響でかかった費用を回収できずに廃業していく可能性がある」という。

「現時点で(オーガナイザーが)できることは限られています」と、あるエージェンシー筋は証言する。せいぜいイベントの観客向けに手指用の除菌剤を会場に用意する位しかないという。「コンサート会場へ足を運ぶことでどのような危険に晒されるか、人々は理解しています。ウイルス感染を予防する最善策は、正しい方法で手洗いを実施し、他人と直接触れ合わないことです。」

コロナウイルスの影響による損失を保険でカバーしようと期待しているプロモーターやアーティストは、明暗が分かれる。「伝染病は保険の補償範囲になり得ますが、2020年1月後半に、コロナウイルスに関する特定の免責条項が業界全体で付加されました」と、保険会社HUB Internationalでエンターテインメント業界向け保険を担当する部門の上級副社長は言う。「免責条項が付加される以前に興行中止保険に加入していたフェスティバルやイベントは、限定的ながらも補償されるかもしれません。ところが今後加入する新規の保険契約では、コロナウイルスによるイベント中止は一切補償されないでしょう。」

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE