レコード店やレーベルに大打撃、音楽業界で起きている流通システム破綻の実情

結果として、メジャーを含む多くのレーベルが現在、かつては基本中の基本だったアルバムをレコード店に納品するというタスクの達成に悪戦苦闘している。その影響は過去のクラシックと新作の両方に及んでいる(取材に応じたあるレコード店オーナーによると、去年はブラック・キーズやベック、シガレッツ・アフター・セックス等の新作が入荷しなかったという)。4月にはレコード・ストア・デイを控え(編注:新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、6月20日に開催延期)、各レコード店は1年で最も売上が見込める日に商品が不足するのではないかと不安に思っている。またメジャーに比べてフィジカル版のセールスに頼る部分が大きいインディレーベルやアーティストたちは、現在の状況に伴う損失の埋め合わせや、作品のリリースプランの変更等を強いられている。

「僕らの知り合いのほぼ全員が影響を被ってる」Direct Shotと契約しているあるインディレーベルのエグゼクティブはそう話す。「商品の紛失や管理ミス、それに深刻な納品遅れ。信じがたいけど、多くの人が名前を耳にしたこともない会社が、アメリカの音楽業界全体に深刻なダメージを与えているんだ」

ストリーミングサービスの利便性と急速な成長の恩恵を受けているカジュアルリスナーの多くは、フィジカル版の販売ビジネスの動向に無関心に違いない。CDとレコードの売上が下落しているのは事実だが、American Association of Independent Music (A2IM)の代表Richard Burgessによると、2019年のアメリカの音楽市場におけるフィジカル版の総売上は10億ドル近くに上ったという。

その数値は、アメリカの音楽業界全体の売上の約10分の1だ。「無視できる数字じゃない」Burgessはそう話す。インディレーベルの多くにとっては、フィジカル版のセールスは非常に重要だ。A2IMのメンバーであるレーベルの中には、CDとレコードのセールスが総売上の半分を占めているケースもある。特にここ数年、レコードの需要は着実に増加しており、インディとメジャー(マーケティング会社Alpha Dataによると、2019年で最も話題を集めた作品の多くはメジャーからのリリースだったという)の両方に恩恵をもたらしている。「フィジカル版のリリースは、マーケティングプランの重要な一部であることが多い」Burgessはそう話す。


ニューヨーク州ポキプシーにあるレコード店のオーナーによると、わずか4枚のレコードを届けるために貨物トラック1台が使用されていたという。(Courtesy of Justin Johnson)

音楽業界では過去何十年にもわたって企業の統合が進められてきたが、その結果としてWarnerがDirect Shotとタッグを組んで以来、同社は市場におけるフィジカル版全体の8割以上の流通業務を担うことになった。その中にはメジャー3社(全てコメントを拒否)からのリリースのほか、時代の変化とともに流通業務をメジャーのネットワークに依存せざるを得なくなったインディレーベルの作品も含まれている。

「Direct Shotは明らかに、処理しきれない量の仕事を請け負っていた」Coalition of Independent Music Storesのエグゼクティブディレクター、Andrea Paschalはそう話す。「1インチのパイプに、10インチパイプ分の水を流し込むようなものだ」数年前にWarnerが所有するAlternative Distribution Alliance (ADA)を脱退したインディレーベルBetter Noise MusicのCEO、Allen Kovacはそう語っている。

Translated by Masaaki Yoshida

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