グライムスが明かす、自身の素顔と超越したヴィジョン「カオスこそが私のブランド」

変幻自在な音楽のインスピレーション源

cと名乗る彼女は、地球上で最もオンラインでの生息に適した生物のひとつだ。早口であまり言葉を区切らない彼女の話し方は、まるで2倍速のポッドキャストのようだ。キーの高い快活な笑い声を上げる時も、その傾向は変わらない。彼女はかつて興奮剤を常用していたというが、当時の彼女の会話ペースを想像すると空恐ろしくなる(彼女が舌足らず気味であることは事実だが、彼女はそれを利点へと昇華させている。歌う際にシビランスが発生しないため、マイクへのダメージを抑えることができる)。

人工知能がアート(および人間社会におけるあらゆる物事)を手がけるようになるという未来像は、彼女の胸を高鳴らせる。シンセサイザーはもちろんのこと、ヴァーチャルリアリティからヘアカラーまで、彼女は人工的なもの全般に強い関心を持っている。現在の彼女の髪は根元が黒く、毛先に向かうにつれてブロンドへと変化していき、トップはピンク、ポニーテールはオレンジに染まっている。さらに彼女は、理解しがたいことだが、Uberのドライバーたちが好みそうな化学物質たっぷりの芳香剤の香りが好きだという。アコースティックギターの音色が印象的な「Delete Forever」(異形のカントリーというべき雰囲気は、2015年作「California」に通じるところがある)はアルバム中最もオーガニックな曲だと思われがちだが、実はそうではない。「笑っちゃうんだけど、実はあれってサンプル集に入ってたやつを切り貼りして作ってるのよね」。それはもはやリアルを超えたフェイクだ。

アニメやボリウッド、古いスーパーヒーローもののコミックまで、多様なカルチャーを貪欲に飲み込んでいく彼女は、まるでアート制作に特化したAIだ。彼女との会話は、『ポートランディア』のスケッチ「Did you read it?」のようになることもある。「Lady Leshurrって知ってる? 『Culture』シリーズは読んでる? 『スタートレック:ディスカバリー』のクリンゴン人のレイプのくだりには興奮しなかった? Max Tegmarkの『Life 3.0.』っていう本の冒頭は読んだ方がいいよ」。彼女は人から何かを勧めてもらうのも好きで、ダンカン・ジョーンズについて筆者と議論した後、『月に囚われた男』と『ミッション:8ミニッツ』を映画とテレビ番組のウォッチリストに加えていた。


Photographed and directed by Charlotte Rutherford for Rolling Stone. Dress by Iris Van Herpen. Jewelry by Lynn Ban.

超現実的であったり攻撃的だったり、時には蛍光色のハイパーポップであったりと、変幻自在な彼女の音楽のインスピレーション源は多様そのものだ。トゥール、スマッシング・パンプキンズ、ナイン・インチ・ネイルズ等のロックバンドから、イギリスのエレクトロニックミュージック界の奇才ブリアルやコクトー・ツインズ、果てはマライア・キャリーまで、時代もジャンルもまさにごった煮だ(当日は触れなかったものの、弟のマック・バウチャーに勧められてマリリン・マンソンにハマった時期もあったという)。昨年彼女がストリーミングサービスで最も頻繁に聴いたアーティストは、Doja Catとシンセの魔術師ヴァンゲリスだったという。彼女の体には数多くのタトゥーが刻まれているが、「Beautiful」という言葉はリンダ・ペリーが手がけたクリスティーナ・アギレラの曲へのトリビュートだ。また彼女は、テイラー・スウィフトの作品に関する知識について絶対の自信を持っている。cは見過ごされがちなスマッシング・パンプキンズのシンセポップアルバム『Adore』が大好きであり、以前は自分のことを「隠れロッカー」とみなしていた。彼女はビリー・コーガンの人柄にとても惹かれるという。「彼って支離滅裂だよね」彼女はそう話す。「私と一緒」

Translated by Masaaki Yoshida

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