グライムスが明かす、自身の素顔と超越したヴィジョン「カオスこそが私のブランド」

「インターネットの申し子」が向き合う批判

中学に上がった頃から、インターネットは彼女の友になった。今では罪悪感を覚えているが、ネット上で嫌いな教師を中傷したこともあったという。2000年代初頭には様々な音楽ブログがもてはやされていたが、グライムスはその恩恵を受けた最後の世代のアーティストの1人だ。彼女の初期の作品を取り上げたのは、Gorilla vs. BearとCokemachineglowだった。後に彼女は自身のTumblrで、各メディアやWikipediaに掲載された内容の誤りを徹底的に正すようになった。当時はどうかしていたと認めつつ、彼女は笑ってこう言った。「ちょっとナイーブ過ぎた」

自身のアンビバレントなAIへの思い入れとは対照的に、ストリーミングプラットフォームのおすすめ曲選出アルゴリズムは、彼女の曲をどう扱うべきか分かっていない。だがそれは人間も同じのようだ。「私の曲の大半はプレイリストに適さないから」彼女はそう話す。「それって大いに問題よね。ロックでもないしポップでもない、カテゴライズ不可能ってことだから」。彼女が好む長尺でドラマチックなイントロも障害となっている。「冒頭の40秒間に歌が入らなかったら、その曲は飛ばされちゃうの」。彼女は次のプロジェクトで、趣向の異なる2つの作品を同時に発表することを検討している。ひとつは『Miss Anthropocene』における数少ないコラボレーション作のひとつである「Violence」のような盛り上がる曲で統一したもの、もうひとつは彼女が他のヴォーカリストたちに提供した曲を集めたものにしたいという。


Photographed and directed by Charlotte Rutherford for Rolling Stone

彼女がツイートしたRoko’s Basilisk(残虐な人工知能についての思考実験)に絡んだ極めて具体的で聡明なジョークに感銘を受け、イーロン・マスクがメッセージを送ったことが2人の交際のきっかけだという通説は事実だという。彼との交際が自身のイメージにどれほどの影響をもたらすかについて、彼女はまったく予想できていなかった。その特異なキャラクターにも支えられたサブカル界隈での人気とは裏腹に、メジャーなラジオ局で流れるヒット曲を持たない彼女にとって、グライムスの曲を聴いたことがない一般層の人々からの反響は特に思いがけないものだったという。当時彼女は、パフォーマンスと制作だけでなくエンジニアリングまでを自らこなすという事実を認めようとしない、世間の性差別的意見を無視するだけの余裕を身につけたばかりであり、その状態に満足感を覚えていた。

「まるで信じてもらえないんだけど」そう前置きして彼女は続ける。「世間が大騒ぎするなんて、私は考えもしなかったの。腹を立ててるわけじゃなくて、そんな大事だなんて思ってなかったってこと。彼との交際に関する今年の報道だけで、私がこれまで積み上げてきたもののイメージは一変したと思う」

インターネットの世界は向き合えば向き合うほど、その実態がぼやけていく。マスクとの交際が報じられた直後から、ネット上の一部のファンは嫌悪感を露わにし、あるユーザーは「今すぐイーロンと別れろ」とツイートした。「以前の私は超が付くほどの左派だった」cはそう話す。「今でもある意味そうだけど、それが彼のイメージとあまりにかけ離れ過ぎてた。世間の怒りの根源はそれだと思う」共和党(および民主党)に巨額の政治資金を寄付しているテック業界の億万長者との交際について、世間から偽善行為だと見なされることはもはや必然だった。

彼女は心の底から、マスクが正しいことをしていると信じている。また彼女は、次期大統領にバーニー・サンダースが選出されることを望んでいる。「今はすごく不安定な時代だと思う」彼女はそう話す。「何が正しくて何が間違ってるかをはっきりさせることで、世間の人々は安心を得てる。社会は変化を起こすための大きな争いの最中にあって、人々は自分が正しいと思う側につかないといけない。そういう中で、微妙なラインっていうのが受け入れられにくいことは理解できるの」

Translated by Masaaki Yoshida

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