グライムスが明かす、自身の素顔と超越したヴィジョン「カオスこそが私のブランド」

「私は自分のイメージを一貫させることが苦手なの」

自身が経験したことをエゴの死と呼ぶ彼女は、世間からの批判に心を乱されることはなくなったという。「予定が4つか5つキャンセルされたわ」彼女はそう話す。「辛いときもあるけど、だからこそより楽しめるっていうのも事実なの。私は『期待に応える』っていうことにすごく執着していたけど、他人を失望させることに解放感さえ感じたの」彼女はそう言って、いつも以上にハイトーンな笑い声を上げた。「今の自分ならもっと超越したアートが作れる、そう感じてるの」

彼女に対する批判の波はほぼ収まったようだが、『Miss Anthropocene』へのポジティブな反響がその一因であることは間違いない。またファンですら気付いていないような、独特のユーモアのセンスも無関係ではないはずだ。「世間は私がすごくシリアスだと信じてる」彼女はそう話す。「どうしてだか分かんないんだけど」。大きなヒントは新作の曲群のタイトルだ。アルバムは気候変動やオピオイドなど、現代社会を蝕む病を司る神々という仰々しいコンセプトに基づいている一方で、同作にはジャック・カービーの『New Gods』へのオマージュがいくつか見られる。「Darkseid」はダークだが、実はそのタイトルは両眼から死の光線を放つ悪役の名前だ。(「私のアートはジャック・カービーに大きく影響されてる」音楽を作り始める前はヴィジュアルアーティストだったcはそう話す。「彼のヘヴィな明暗法と黒のライン、それにあの独特で奇妙なドットパターンが大好きなの」)



去年の7月後半、彼女はInstagramでいかにも馬鹿げたウェルネスルーティンを公開した。アディダスとスポンサーシップ契約を結んだ後、彼女は同社のトレーニング習慣に関するQ&Aに対し、「窮乏タンクの中で2〜4時間過ごす」、赤外線サウナでもあるスタジオでの作業、そしてとりわけ突拍子もない「眼球の表面のフィルムを剥がし、オレンジ色の超柔軟ポリマーと交換する手術を受ける」など、フェイクの回答をInstagramに投稿した。その投稿は様々なメディアで取り上げられたが(「イーロン・マスクの彼女グライムス、突飛な眼球手術について明かす!」)、その多くは彼女の投稿を真に受けているように思われた。

実はそのマニフェストの文面を書いたのは、彼女のクリエイティブパートナーとして作品のヴィジュアル面(音楽にはノータッチ)に大きく寄与している弟のマックだ。「私がその手術を考案したことになっちゃってるの!」そう話す彼女は笑いを止められない。「今の世間はこんなにもあっさりと騙されちゃうんだなって。何が本当なのか誰も分かってないの」そのいたずらを特に愉快に思った理由について、彼女はこう話す。「だって明らかにジョークなのに、それが私のネガティブなイメージと結びつけられちゃうんだもの」

彼女はこう付け加えた。「私は自分のイメージを一貫させることが苦手なの。っていうか、カオスこそが私のブランドなのかも」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE