グライムスが明かす、自身の素顔と超越したヴィジョン「カオスこそが私のブランド」

グライムスを名乗るまで「鉄砲玉みたいな子供だった」

彼女はどのような道のりを歩んできたのだろうか? バンクーバーで暮らす政府弁護人の母親と会計士から起業家へと転身した父親の間に生まれた彼女は、幼い頃から2人の兄弟(後に2人の腹違いの兄弟が加わる)にライバル心をむき出しにしていたという。「2人をやっつけたいっていう思いが募って、ポケモンのビデオゲームの達人になったの」彼女はそう話す。「陸上をやってたのも、2人より早く走れるようになりたかったから」

宇宙空間やSF的ファンタジーへの傾倒は、彼女とマックがまだ5〜6歳の頃に『デューン 砂の惑星』や『ロード・オブ・ザ・リング』を読み聞かせていた父親の影響が大きいという。一方でDIY精神や冒険心、そしてエキセントリックな一面は、子供の頃に家出して貨物列車に飛び乗って以来森で暮らしていたという祖父譲りだ。大学生の頃に彼女が祖父を訪ねた時、彼はホームレスたちを雇って家をリフォームしていた。夜中に彼女が襲われないように、彼はある策を講じた。「ピストルを渡されて、貨物コンテナに閉じ込められたの」彼女はそう話す(マックはコンテナではなく小屋だったと主張しているが、それ以外は事実だと話している)。

幼少期に通ったミッションスクールの居心地は決して良くなかったが、彼女が本当に辛い思いをしたのは10代の頃だった。「笑えるんだけど、私はものすごーく鬱だった」彼女はそう話す。「今思えば、鉄砲玉みたいな子供だった。理由はわからないけど。体のあちこちに傷をつけてたんだけど、それは悲しかったからじゃなくて、体にいい感じの傷跡を残すことが好きだったの。狂ってるわよね。お腹の子供も自分と同じくらいクレイジーになるんじゃないかって思うと、正直不安で仕方ないの。だって私、自分が不死だと思ってるのよ。ライトを点けずに高速道路を爆走したりするし。『あー気持ちいい』なんて言いながらね」

両親は彼女が12歳くらいの頃に離婚したが、cは自分の性格がその出来事に影響されているとは考えていない。真夜中に2階にあった寝室の窓から抜け出し、地上に向かって飛び降りたりしていたことについて彼女は、いたずらというよりもスリルを欲していたと話す。1歳6ヶ月年下の弟マックはまだ10歳に満たなかった頃、クレアとその友達のゴスなスタイルにショックを受けたという。「髪を染めてピアスを開けて、Sharpieで絵やら文字やらを書いた手作りのトレンチコートを着てた。母さんは彼女たちのためにクッキーを焼いてたよ」

しかしその後経験した辛い時期のことを、彼女は映画『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』になぞらえる。「とにかくトラブルが絶えなかった」cはそう話す。「絶望的でトラウマになるような出来事もあった。当時親しかった友達の中には、もうこの世にいない人もたくさんいるの」法を犯したということは認めつつも、彼女は詳細については語ろうとしない。その理由として彼女は、両親にショックを与えたくないこと、申請中のアメリカ永住権の取得に影響する可能性があること、そしてボーイフレンドのイメージを悪化させたくないことを挙げた。「人を殺したことはないわ」彼女は真顔でそう語った。


Photographed and directed by Charlotte Rutherford for Rolling Stone. Dress by Iris Van Her Pen. Jewelry by Lynn Ban.

道を外れかかった彼女だったが、その後モントリオールにある名門大学マギル大学に入学する(「別にそんなに難しいことじゃなかった」彼女は肩をすくめてそう話した)。選択した音響心理学の一貫で、彼女は音楽制作ソフトLogicの使い方を学んだ。当時の彼女の音楽的バックグラウンドといえば、9歳の頃に散々な思いをしながら1年間続けたバイオリンのレッスンくらいだった。しかし同ソフトの使い方を覚えた彼女は、アニマル・コレクティブのループの使い方を耳にした時に、頭の中で何かがはじけるのを感じたという。帰宅するやいなや、彼女は断片的だった曲のアイディアの数々を繋いでいった。そうこうするうちに、彼女はグライムスと名乗るようになる。それ以降世に送り出してきた楽曲の洗練ぶりからは考えにくいことだが、彼女は今でも音楽理論の基本さえ理解しておらず、魅力的なエフェクト音と折り重なる楽器類も、自分ではほとんど弾けないという。

「ギターを毎日練習したりしたくないの」彼女はそう話す。「すごく時間を取られちゃうし、あまりクリエイティブなことだとは思えないから」。音楽制作ソフトの使い方を覚え、一音ずつ録ったギターやバイオリンのサウンドを切り貼りする技術を身につける方がずっと有意義だと、彼女は自信に満ちた口調で話す。「私は今後さらに進化して、用途が拡大していくスキルを学びたいの」

Translated by Masaaki Yoshida

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