フライング・ロータスも魅了、リトル・ドラゴンのユキミが語る「変人バンド」の新境地

リトル・ドラゴン(Photo by Ellen Edmar)

最新作『New Me, Same Us』をリリースしたスウェーデンの4人組、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノにインタビュー。ゴリラズ、フライング・ロータス、フルーム、ケイトラナダ、マック・ミラーとのコラボでも知られる彼女たちの新境地とは?

リトル・ドラゴンの6枚目のアルバムは、『New Me, Same Us』と題されている。ここに収められたかつてなくエクスペリメンタルな曲の数々を踏まえてこのタイトルを読み解くならば、それぞれに成長し変化する各メンバーと、常にそこにあり続けるバンド、ふたつが交差する場所で音楽を作ることの意義とポテンシャルを再確認した――といったところだろうか。何しろスウェーデンのヨーテボリで同じ高校に通っていたユキミ・ナガノ(Vo)、フレドリック・ヴァリン(Ba)、エリック・ボダン(Dr)が、ホーカン・ヴィレーンストランド(Key)を交えて活動を初めてから、すでに20年以上が経過。2006年にデビューし、ゲスト・シンガーとしても引く手数多のユキミの稀代の美声と、洗練されたエレクトロ・ソウル/ファンク・サウンドで彼らは世界中にファンを獲得してきたわけだが、今作ではレーベル移籍を経て、いつになく自由なスタンスでレコーディングを敢行。90年代のハウスやR&Bからビート・ミュージックやコズミックなジャズまでを網羅する音楽的スケールを見せつけて、変幻自在のサウンドスケープを描く。ダンス・ミュージックの快楽性を追ったかと思えば、昨年コラボしたフライング・ロータスと共振するかのような領域に踏み入れて、ミュージシャンシップと音楽愛を全開にしたこの意欲作のメイキングを、ユキミに振り返ってもらった。

―新作『New Me, Same Us』はニンジャ・チューンへの移籍第一弾アルバムになります。ジョーダン・ラカイなどが所属する今のニンジャ・チューンとリトル・ドラゴンはすごく相性が良さそうに見えますけど、契約までの経緯を教えて下さい。

ユキミ・ナガノ:前のレーベルとの契約が切れて、次を探していた時に声をかけてくれたんだけど、レーベルが持っているストーリーがすごく気に入ったの。それに、人としてフィットしたのよね。ほら、新しい会社に入ったら、一緒に仕事をするのがどんな人たちなのかが一番大事だったりするでしょう? それと同じ。そういう意味でも実際に会ってみてピッタリきたから、契約することにしたの。



リトル・ドラゴンが参加したフライング・ロータス『FLAMAGRA』収録曲「Spontaneous」

―前作『Season High』を2016年に発表してからは、フレキシブルにシングルやEPを発表してきましたよね。結果的にどの曲もアルバムには収録されませんでしたが、ああいう自由な作品リリースは、どういう意図で行なったんですか?

ユキミ:やっぱり、バンドにとってその時期が新しい時代だったからっていうことがある。で、その時々の自分たちを表すものだったし、単体の曲やEPとしてリリースするのが相応しいと思えたの。まあ、今だとみんな曲単体でリリースしたり、プレイリストの中の1曲っていう感覚のほうが普通だし、私たちがちょっと古臭いのかもしれないけど。アルバムとしてのアルバムっていうのは私たちにとって大事だから、そこには合わない曲だったのね。今回のアルバムは、また別のチャプターとして新しく作っていったわ。

―中でも2018年のEP『Lover Chanting』は、『Season High』と『New Me, Same Us』の中継地点だったようにも聴こえます。

ユキミ:確かに中継地点ね! 今まで自分ではそう思わなかったけど、その表現がぴったりなんじゃないかな。サウンド的には特に中継地点になっていると思う。私たちとしては、その時に作りたいもの、試してみたいこととして作ったんだけど、実際2枚のアルバムの中間にあるわね。



―『New Me, Same Us』に着手した当時、どんなアルバムを作りたいと考えていたんですか?

ユキミ:クリアなアイデアはなかったわ。こう言うと全く方向性がなかったみたいに聞こえるかもしれないけど、私たちはアルバムを作る時は、全くの白紙状態が好きだったりする。それで、曲を作り始めてみて、体で本能的に感じることが重要なの。それに導かれるままに作っていく感じ。きちんとコンセプトやプランを作って、それに従って進めていくのがうまい人たちもいると思うけど、私たちはそれとは逆なのかな(笑)。むしろその場で起きることが大事なのよね。

―過去2枚のアルバムは外部プロデューサーを交えて制作しましたが、今回は再び、以前のようにほぼ4人だけで作っていますね。外部プロデューサーと組んで学んだことはありますか?

ユキミ:もちろん色んなことを学んだわ。でも、これだけ長く音楽ビジネスの中で仕事をしていると、プロデューサーだけじゃなくて私たちの音楽をプロモートしようとする人、言ってしまえば商品として売ろうとする人たちも大勢いる。で、「成功するためにはこうしたほうがいい」とか「こっちのほうがうまくいく」とか周りに言われて、知らず知らずのうちに左右されちゃうことも多くて。別に悪いことばかりじゃないし、中には有益なこと、学べることだってある。でもそのせいで、自分たちが元々やろうとしていたことが見えなくなったり、ぼやけてしまったら意味がないでしょう? だからこそ、今回はそういうものに影響されずに自分たちだけでやろうとした。音楽として作りたいもの、やりたいことに忠実にね。バンドとしてこれまでになく一致団結しなきゃいけなかったし、現実にそうなったと思うわ。



―「今までになくコラボレーティヴ」なアルバムだとコメントしていましたね。

ユキミ:そうなの。これまではコラボレーションじゃない部分も多かったのよ。みんな別の部屋で曲を作っていた部分があった。例えば、エリックがビートを作ってきて私がそこにヴォーカルを乗せて、それぞれがディテールを詰めて完成―だとか。その場合は、最初に曲のアイデアを出した人がイニシアチブを持って、「これは誰々の曲」みたいな感じになる。その結果、バンド内にちょっとしたヒエラルキーが生まれたりもしたのね。でも今回はそういうアプローチをやめた。アイデアを出すのは誰かひとりでも、そこに私が加わることで曲全体を変えたり、全員で見直したりする方法を採ったの。そうすると、もちろんうまくいかないこともあるし、効率が悪く思えるんだけど、新しい要素やアイデアを加えることで曲がどんどん変わって、広がりが出ると同時にオーガニックにまとまっていく。で、最終的には4人で作った曲だという感覚が得られるの。だから、これまでとは作業のやり方からして違っていたのよ。

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