UK音楽シーンにおける、2020年の新たな地殻変動を読み解く

独自の発展を見せる南ロンドンのロックシーン

続いては南ロンドン。ここ数年、日本でも話題になっていた同地では、ジャズミュージシャンからラッパーまで、様々なスタイルのミュージシャンがひしめくなか、ロックシーンも独特の発展を見せている。

焦燥に駆られたポストパンクを鳴らすシェイム、音もビジュアルも強烈なHMLTD、女性4人組の(という説明も時代錯誤的だが)ガレージバンド、ゴート・ガールなど、ここ2、3年はウィンドミル(The Windmill)というべニューを中心として、刺激的なバンドが多数登場している。



そんななか、新顔として注目されているのが7人組の大所帯であるブラック・カントリー、ニュー・ロード(Black Country, New Road)だ。バイオリンやサックスの音が舞う彼らの音楽は、アーケイド・ファイアと比較されるように、2000年代カナダのインディロックをほうふつとさせる。が、よりポストパンクに寄った、ひりついた音は英国ならでは。

彼らはウィンドミルで演奏しているが、もともとはケンブリッジ出身。先述したソーリーも北ロンドン出身でありながら、ウィンドミルなど南ロンドンのベニューの常連であるという。このように、南ロンドンは新たな才能を引き寄せる磁場になっている。



そんな同地の「親分」的な存在が、ファット・ホワイト・ファミリー。彼らは、2019年にアルバム『Serfs Up!』を、ソーリーと同じドミノからリリース。名門レーベルへの移籍デビュー作だからといって猫をかぶることなく、あいかわらず不穏でローファイなサイケデリックロックをやっているのが、なんとも「らしい」というか。



ウィンドミルでも演奏していたブリットスクール出身の4人組、ブラック・ミディも忘れてはいけない。彼らの『Schlagenheim』は多くのメディアやリスナーが2019年のベストアルバムに挙げていたし、来日公演も大いに盛り上がった。プログレ的、マスロック的とも評される複雑にツイストしたその演奏は、ロックのありうべき未来を照らす。

と、ここまで書いたところで、なんとスクイッド(Squid)がワープと契約した、というニュースが飛び込んできた。スクイッドは、ロンドンの真南にある海辺の町ブライトンで結成されたポストパンクバンドだ。クラウトロック、ノーウェイヴ調の演奏の只中、ひっくり返った声で歌うドラマー兼ボーカリストのオリー・ジャッジの存在が、なんとも際立つ。この先に控えているであろうアルバムには大いに期待したい(ワープから鳴り物入りでデビューするとなれば、2000年代のマキシモ・パークを連想させる)。



同じくブライトン出身で話題のバンドが、ポリッジ・レイディオ(Porridge Radio)だ。彼女たちの強みは、フロントに立つダナ・マーゴリンのカリスマ性、そして軋轢や混乱などを直情的に表現する演奏と歌唱が持つ緊張感。先日、アメリカのシークレットリー・カナディアンからリリースされた2ndアルバム『Every Bad』は、Pitchforkから絶賛されるなど、海を越えて高い評価を受けている。


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