UK音楽シーンにおける、2020年の新たな地殻変動を読み解く

UKラップシーンの最前線

先に「問題作」とは言ったものの、ムラ・マサの『R.Y.C』はやはり重要かつ野心的な作品である。というのも、ここで彼はクレイロに象徴されるアメリカのベッドルームポップの潮流を引き込もうとしているし、ロンドン・インディロックの先頭を行くウルフ・アリスのエリー・ロウゼルも呼び込み、さらにはラッパーのスロウタイも参加させている。「ポストジャンル」的というか、1996年生まれの彼にとっては、ジャンルの境界線が初めから存在していないかのようだ。

ロンドンの南西に位置するノーザンプトン出身のスロウタイは、「ブレグジット・バンディット」を名乗る不敵なジョーカーである。ムラ・マサとの共作曲「Doorman」を含むアルバム『Nothing Great About Britain』は、英国社会や政治に中指を立て、徹底的に皮肉り倒した2019年の最重要作だと言っていい。



『Nothing Great About Britain』には、グライムシーンからマーキュリー賞を掴んだスケプタが参加。彼やストームジー、ロードラップシーンからのし上がったギグス、そしてアフロビーツを独自にアフロスウィングへと発展させたJ・ハスらは、現在のUKのラップシーンにおける最重要人物だ。

彼らに続くように、若きデイヴは傑作『PSYCHODRAMA』で2019年のマーキュリー賞を獲得した。コンシャスで内省的な表現を得意とする彼は、頭一つ抜けた存在だろう。



ギャングカルチャーと分かちがたく結びついたロードラップやUKドリル(その中心地のひとつは、ウィンドミルもあるブリクストンだ)を独自に培養し、発展させてきたUKラップ。だが、今は北米との相互交流が盛んになっていることも指摘しておかねばならない。

カナダのドレイクはスケプタやジェイミー(Jme)らによるグライム・レーベル、ボーイ・ベター・ノウン(Boy Better Known)と契約したことを2016年に明かした(しかしその後、目立った動きは見られない)。スケプタやR&Bシンガーのジョルジャ・スミスと共演するなど、北米のポップスターであるドレイクが英国のフレッシュな才能と積極的に交流してきたことは、かなり重要なことである。

もう一つ注目すべきはドリルシーンで、現在ニューヨークのブルックリンでは、UKドリルから影響を受けたラップシーンができあがっている。そのブルックリンドリルのラッパーたちはUKドリルのプロデューサーがつくったビートを用いており、彼らのフロウやライミングもUKから影響を受けている、という指摘もある。UK独自のラップミュージックが本国アメリカに影響をもたらす、というおもしろい動きが起こっているのだ。ドレイクも昨年末に発表したシングル「War」で既にドリルに取り組んでいるし、UKドリルのスタイルは北米で流行の兆しを見せている。これこそ、新しいかたちのブリティッシュ・インベイジョン?


ブルックリンドリルとUKドリルをつなぐ新世代ラッパー、ポップ・スモークは今年2月に20歳で死去。

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