恐怖による子どものコントロール 社会でのサポートが求められる体罰防止

しかし「しつけ・教育のためには体罰は必要だ」と考える人はまだまだ多いようです。そのような人の多くは、自分たちも親等から体罰を受けた経験がある、「虐待の世代間連鎖」に陥っている、体罰は一種の洗脳である、と精神科医の本田秀夫氏は指摘しています。体罰を繰り返し受けて育った子どもは、大人になって「自分がここまで成長できたのは体罰のおかげだ」と信じ込んでしまうことがあり、それを否定されると、自分だけがつらい仕打ちを受けた現実に直面しなければならなくなるため、そうした後ろめたい感情を押し殺して正当化してしまうのです。また、体罰を行なってしまう側に、そうした認識の問題だけでなく、環境的にストレスを抱えやすくなっていることが原因の場合もあり、体罰の防止には社会全体でのサポートが必要でもあります。

体罰と音楽が関連した話としては、2014年に映画『セッション』が公開された際や、2017年のジャズトランぺッターの日野皓正氏のビンタ騒動などの際に、様々な意見が交わされたのも記憶に新しいところです。ここでも多くの「体罰肯定論」がありました。しかし、「暴力はだめだ。が、しかし~」と逆説の接続詞をつけて語ってはならないと私は思います。それは「戦争はだめだ、が、しかし~」「人種差別はだめだ。が、しかし~」「いじめはだめだ、が、しかし〜」でも同じだと思います。特に音楽は、以前この連載でも取り上げましたが、公民権運動のときのように「それまで公然と行なわれていた間違った常識」に対してNoと言ってきた歴史もあります。その反対に、単なる現状肯定や過去に培われた固定観念に固執することは、文化の衰退に繋がってしまうのではないでしょうか? 現実的にどう対処するかを考えることは当然大切なことですが、「体罰=暴力には意味がない」と気付いた以上、「が、しかし~」ではなく「暴力はだめだ。だから、どうすればいいのか?」と問うことからはじめるべきです。世界で最初に体罰禁止を法定化したスウェーデンでも、長い時間をかけて、社会全体で認識を共有し、体罰によらない育児・教育を推進してきました。私たちも、この4月の法の施行をきっかけにして、一歩ずつ前進していければと思います。



【参照】
・「体罰禁止」に眉を顰める日本人が知らないこと〜世界88カ国の調査でわかった事実PRESIDENT Online2019/12/23
 https://president.jp/articles/-/31482

・子どもすこやかサポートネット
 肯定的な子育て・教育・支援の効果についての科学的根拠(エビデンス)
https://www.kodomosukoyaka.net/pdf/201709-evidence.pdf#page=3

・ ドクター本田のにじいろ子育て
・ <144>不要な体罰はらむ危険 2019年6月26日 山梨日日新聞電子版
 https://www.sannichi.co.jp/article/2019/06/26/00354974

・愛の鞭ゼロ作戦 厚生労働省
http://sukoyaka21.jp/ainomuchizero



<書籍情報>




手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/




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