感染拡大を抑制する「ソーシャル・ディスタンシング」に効果はあるのか?

シカゴ大学の研究は、死の危険から救える可能性のある患者の命を金額換算することに主眼を置いている。計算には、国の機関が日常的に利用している「統計的生命の価値(VSL)」が採用された。VSLは例えば、高速道路の制限速度の引き上げや、ある環境汚染物質を新たに禁止項目に加えるなど、政策変更にかかるコストと利益の計算に使われている。国の機関が、人の生死を左右するかもしれない政策のコスト計算をしていることは「ショッキングな事実かもしれない」とグリーンストーン教授は言う。「政府をはじめ、程度の差こそあれ各州や地方自治体でも採用されている手法だ。社会は常にこのようなトレードオフを受け入れねばならない。」

VSLに基づく試算は、将来の所得や購買行動に限って適用されるものではない。「福祉を評価する際の基準にもなる」とグリーンストーン教授は言う。「市場で売られている食料やテレビなど実際に購入したモノの価値評価だけでなく、友人や家族と過ごす時間の満足度なども評価できる。包括的な評価基準だ。」

米国政府が現在採用している価値基準によると、国民1人あたりの価値は約1100万ドル(約11億8000万円)だ。これを年齢にかかわらず救える命に当てはめると、176万人を救えるとして約20兆ドル(約2150兆円)になる。米国の年間GDPに匹敵する金額だ。

一方で、「私は国家公務員ではない」と言うグリーンストーン教授の採用した価値基準は、政府の基準と異なる。余命の短い高齢者によりリスクの高い疾病であることを考慮して、教授の試算モデルではVSLを年齢別に調整している。「経済理論や常識的感覚から見て、今回の重大な経済問題ではVSLがライフサイクルによって変化する」と教授は言う。つまり寿命があと3年の人と、25年、30年、40年の人とではVSLも異なるはずだという理論だ。しかし年齢別にVSLを調整しても、ソーシャル・ディスタンシングは莫大な経済的利益をもたらす。「通常はどのような政策を採用しようが、これほど大きな利益を上げる機会はめったにない。我々の試算した8兆ドルというのは、1世帯あたり6万ドル(約650万円)に相当する」と教授は主張する。

シカゴ大学による研究結果は、年老いた国民を犠牲にすれば経済は繁栄し続ける、などという右派によるレトリックが根本から誤っていることも証明した。特にテキサス州の副知事による主張は酷かった。寿命の長さを考慮しても、社会から高齢者を失うことは、とても計りしれず耐え難い損失になる。

「テキサス州の副知事とは100%関わりたくない」とグリーンストーン教授は締めくくった。

Translated by Smokva Tokyo

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