気候変動問題の敵一覧 人と地球を食い物にしたのは誰だ?

「二酸化炭素を悪者扱いするのはヒトラーに迫害された哀れなユダヤ人への扱いと同様」

・ウィリアム・ハッパー 科学者・気候変動否定論者

プリンストン大学の物理学の名誉教授であるハッパー(80)は、米国内の気候変動否定論を推進する組織の中でもかなり影響力のあるハートランド研究所と密接な関係を保ってきた。2018年、ハッパーはトランプ政権の国家安全保障会議(NSC)のメンバーに選出された。ところが、政府の作成した気候変動に関するレポート内容を否定する彼の極論は採用されなかった。トランプの再選に影響することを懸念したホワイトハウスが、ハッパーの意見を却下したのだ。2019年にハッパーは政権の役職を辞任したが、その後も気候変動を否定する論調は変わらなかった。彼はかつて、二酸化炭素を悪者扱いするのはヒトラーに迫害された哀れなユダヤ人への扱いと同様だ、と発言している。2019年12月には、国連の気候変動会議に対抗して開催されたハートランド研究所のフォーラムで、気候変動問題を訴える運動を「異様な環境カルト」と呼んだ。

・ジム・インホフ オクラホマ州選出上院議員

長期に渡り共和党所属の上院議員を務めるインホフは、自ら気候変動否定論に関する著作『The Greatest Hoax(最大の作り話の意)』を出版した。彼が実際に気候変動など起きていないという主張を証明するため、上院議会へ本物の雪の玉を持ち込んで投げて見せたことは有名だ。この2015年の彼のパフォーマンスは、急激に溶解していく氷山の一角に過ぎない。かつてインホフは環境保護庁(EPA)をゲシュタポ呼ばわりし、2017年にはEPAが「子どもたちを洗脳している」と非難し、EPAを骨抜きにする法案を提出している。彼は気候変動否定論者の集まる大きなカンファレンスの常連で、現在は彼の計画を推進する弟子のネットワークを構築している。EPA長官のアンドリュー・ウィーラーは、かつてインホフの事務所で働いていた。さらに同庁の主席補佐官マンディ・グナセイカラもまた、インホフのスタッフのひとりだった。彼女はトランプ大統領にパリ協定からの離脱を勧めたひとりだ。「彼らがいると安心する」とインホフは、かつてのスタッフがトランプ政権の環境政策にアドバイスできる立場にある状況についてワシントン・ポスト紙に語った。彼を気候変動否定論に向かせているモチベーションは何だろうか? 2012年に旧約聖書の創世記を引用し、人類は「神が司る天候を変えることはできない」と主張した彼は、化石燃料業界から200万ドル(約2億2000万円)以上の政治献金を受け取っている。最も金額の大きい献金者の中には、コーク・インダストリーズやマレー・エナジーの名前がある。

・ケルシー・ウォーレン エナジー・トランスファー・パートナーズCEO

テキサス出身のビリオネアで、共和党へ多額の献金を行なっているケルシー・ウォーレンは、エナジー・トランスファー・パートナーズのCEOを務める。同社は、テキサスまで延伸して論議を呼んでいるダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)や全米各地のいくつかのターミナルにも関わるエナジー・トランスファー・クルード・オイル・パイプライン(ETCO)の親会社だ。DAPLとETCOは、2017年のテネシー州における4998ガロンの石油流出や、掘削した200万ガロンの石油をオハイオの湿地帯へ垂れ流したローバー・パイプラインなど、何件もの環境汚染事故を起こしている。にもかかわらずウォーレンはDAPLのキャパシティを倍増するなど、事業を推進してきた。さらに、2018年に空のパイプラインにドリルで穴を開けた2人の活動家に対し、「遺伝子プールから排除されるべき」と発言した。

・ダニエル・ジョージャニ 米国内務省法務官

ジョージャニはもともとジョージ・W・ブッシュ大統領時代の内務省において、リン・スカーレット副長官の担当弁護人などを務めた。スカーレット副長官は1977年に、環境保護論を、個人の権利を制限するという意味でマルクス主義になぞらえた発言をしている。ジョージャニは後にチャールズ・コーク研究所に勤務し、コークの設立したフリーダム・パートナーズの法務顧問も務めた。フリーダム・パートナーズは多額の資金を保守系政治家のほか、化石燃料業界の規制緩和を求める活動などにばら撒いた。内務省法務官としてトランプ政権の一員となってからは、彼自身によるいくつかの法解釈が論議を呼んでいる。例えば、掘削会社がミネソタ州にあるバウンダリー・ウォーターズ・カヌー・エリア・ウィルダネス付近で開業することを容認したり(同地域はオバマ政権時代には保護されていた)、保護鳥を犠牲にして操業を続けたエネルギー関連会社を擁護したりした。「トランプ政権下の内務省は、政治カルテルのお手本のようなものだ。国のリソースを駆使して特定の利益を誘導している」とロン・ワイデン上院議員(民主党・オレゴン州)は言う。「中でもジョージャニ氏は、カルテルの重要な役割を果たしてきたと思う」

Translated by Akiko Kato

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