医療体制の崩壊を招くような非常時、薬物療法の現場はどうするべきか

ソーシャル・ディスタンシングが実施される以前は、メタドン治療クリニックの患者が自宅投与用に受け取る薬の量は限られていた だが一部のクリニックではそれも変わりつつある。(Photo by TY WRIGHT/The New York Times/Redux)

アメリカでは主に鎮痛剤として処方されるオピオイド系薬物。依存症となり薬物の乱用で死者が出るなど、以前から大きな社会問題になっているが、新型コロナウイルスのパンデミックはどんな影響を与えたのだろうか。

ノースカロライナ州グリーンズボロのルイーズ・ヴィンセントさんは、オピオイドの欲求を抑える薬メタドンのおかげで、普通の生活が送れるようになったと言う。「私にはメタドンが一番いいみたい。おかげで大学院にも通えています」 ヴィンセントさんはUrban Survivor Unionsニューカロライナ支部の責任者。薬物の元乱用者や現在治療を受けている人々の人権と、社会的偏見の撤廃を訴える組織だ。新型コロナウイルスのパンデミックが起きる前から、オピオイド依存症の薬物療法には改善の余地があったのに、と彼女は指摘する。「街に足止めされている状態です」毎日朝早くから、彼女の推定でおよそ500人もの患者がクリニックの窓口に並び、その日の薬を貰いに来ている。特に新規患者の場合は1人1日分が処方されるのが一般的だ。強い薬を断つのを助ける一方で、過剰摂取や他人への「横流し」防止にもなり、だんだん複数回分の薬を貰うことができるようになる。すでに完璧とは言い難い、しかし必要不可欠であるこの治療法は、コロナウイルスのパンデミックでさらに面倒なことになった。数百人が一斉に列を作ることは、他人との間に6フィートの間隔を開けろと疾病予防管理センターが勧めるソーシャル・ディスタンシングに反するからだ。

オピオイド中毒者にとって、治療センターに毎日通って投薬や注射、その他ハーム・リダクション治療を受けることが命綱となる場合もある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が悪化する今、医療従事者は安全にサービスを提供し続けようと必死だ。今年3月、連邦薬物乱用・精神衛生管理庁(SAMHSA)はオピオイド治療プログラムのガイダンスを改訂し、参加者は28日分の薬を持ち帰っても良いとした。ハーム・リダクション連合も薬物使用者、特にホームレスや頼れる先がない人々に物資や情報、必需品を引き続き提供していくためのガイドラインを、全米の参加者及び各種団体のボランティア向けに公表した。オピオイドの過剰摂取による死亡者は毎月4000人ペースで継続している。医療従事者たちは、何が何でも患者の命を救う決意だ。

毎日メタドンを投与するのは不便だが、オピオイドの禁断症状で辛い思いをするのは防げる。「発汗、いらつき、下痢。インフルエンザの最悪の症状のようです。大抵の人は死ぬかと思った、と言うでしょう」と語るのは、依存症治療が専門のカリサ・フォティノス医師。ワシントン州保健医療局の副主席医務官でもある。「アヘン製剤の禁断症状は耐えられないほど苦痛です。だからこそ、そういう状態にしないようにするのが非常に重要なんです。熱が39℃もあれば、どんなものにも手を出してしまいますからね」

フォティノス医師はワシントン州のメタドン患者が激しい禁断症状を経験せずに済むよう、あるいはもっと最悪のケース――楽になろうとするあまり、過剰摂取してしまわないよう努めている。COVID-19感染流行時におけるオピオイド治療のための州のガイドライン策定にも携わった。平常時よりも早い段階で患者が自宅用の薬を受け取れるよう、具体的な勧告が盛り込まれている。

Translated by Akiko Kato

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