ザ・ストロークスが「ロックの救世主」と謳われた、2003年の1万字秘蔵インタビュー

ジュリアン・カサブランカスは敏感になっている

ストロークスが最初のEPをレコーディングした地下スタジオの向かいにあるイーストビレッジのバー2Aで、カサブランカスはNestorという巨漢のプエルトリコ人の旧友と出くわした。

「俺らがどんな風に知り合ったか、覚えてないだろ」Nestorはそう話す。

カサブランカスは素直にそう認めた。

「とあるスパにいた時に、ジュリアンが近づいてきていきなりこう言ったんだ。『お前が女なら今すぐキスするんだけどな』」Nestorはそう話す。「思わずのけぞったよ。それから彼がストロークスってバンドをやってて、Mercury Loungeでのライブに来てくれたら俺たちは一生の友達になるって言われたんだ。当時は誰も彼らのことを知らなかったけど、俺は行ってみることにした。でも会場のエアコンが壊れてて死ぬほど暑かったから、俺は3曲だけ聴いて外に出た。その後Cherry Tavernで彼を見かけて、ライブを見たよって言ったら酒を奢ってくれた」



通りを歩いていたカサブランカスは、レディオヘッドやベック、ニルヴァーナ等のブートレグCDを売り歩いている年配のアジア人女性とすれ違った。

「いくら?」カサブランカスは訊いた。

「1枚5ドル」女性はそう答えた。

「1ドルなら買うよ」彼はそう申し出たが、その女性は取引に応じなかった。

カサブランカスが持っているCDは、ボブ・マーリーのボックスセットの一部(『コンフロンテイション』と『アップライジング』)、そして『エッセンシャル・ジョニー・キャッシュ』のわずか3枚だ。

「あのレディオヘッドのCD、3ドルなら買ってたんだけどな」女性が去った後にカサブランカスはそう言った。「でもそしたら君が記事にして、俺がどっかのバックステージで彼らと会った時に、そのことを指摘されたりするんだろうな」

カサブランカスはメディアに対して敏感になっている。彼は頻繁に、自身の発言が雑誌のヘッドラインを飾り、それを撤回しようとする事態を妄想してしまうという。彼はニール・ヤングの声をけなし、直後にそれを撤回してこう言った。「別にニール・ヤングが嫌いなわけじゃないんだ」。癖みたいなものかという筆者の問いに、彼はこう答えた。「バンドマンはいつもステージ衣装について考えなきゃいけないだろ?」彼はさらに続ける。「俺たちは最近、ステージ上では各自が着たいものを着るって決めたから、もうそういうことを気にする必要はない。俺は口を開くときも同じスタンスにしてるんだ。相手が誰であれ、常にインタビューを受けてるつもりで話してるんだよ」

しかし時間とビールが進むにつれて、そのスタンスは崩れていく。彼の発言は支離滅裂になり、ジョークは毒を増していく。頭の回転が早いがゆえに、彼がまったりとした口調で発する周囲を引かせるようなコメントは余計に笑いを誘う。

今夜のパートナーである女性2人の耳が届かないところで、彼は最近初めてストリップクラブに行ったこと、そしてそれが嫌になったことを明かした。初めて目にするラップダンスに衝撃を受けた彼は、自宅に帰るやいなや2回マスターベーションしたという。

彼がその時のことについて話していた時、ジュークボックスからはサム・クックのソウルフルな「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」が流れ始め、パートナーの女性たちを喜ばせた。カサブランカスは一旦口を閉ざし、しばらくしてからこう言った。「この曲を聴くと、いつもフラストレーションを感じるんだ」

その理由について尋ねると、彼はこう答えた。「どんなにあがいても、俺は彼のようには歌えないからさ」女性の1人が彼に、歌のレッスンを受けようと思ったことはないのかと尋ねた。

Translated by Masaaki Yoshida

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