The 1975も魅了した日本人、リナ・サワヤマが発信する歪んだ社会へのメッセージ

差別に立ち向かう姿勢「ヘイトは建設的ではない」

―ロンドンに20年以上住んでいる中で、日本人・アジア人に対する偏見や差別は多少マシになったと感じますか? それともずっと変わらない?

リナ:確実によくはなってます。90年代のロンドンは今ほど文化が多様ではなかったんですよね。ある意味「食」は、人々が異文化交流するきっかけになると思うんですけど、当時のロンドンは食も多様な文化がなかったですし。今はいろんな文化の食がロンドンにもありますし、きっと他にもいろんなことが作用して、カジュアルな差別から大きな差別まで少なくなったんだと思います。以前は、8月15日を「VJ Day(Victory over Japan Day)」(日本が降伏して戦争が終わった日を意味する)と呼んでいて、それが、イギリス人にとって日本人を差別していい理由にもなっていたんですよね。昔は母が、道端で知らない人から「V」というポーズを差別的に向けられたこともあったらしくて。でも今はその日の名前が変わって、「Victory England Day」を意味する「VE Day」と呼ぶようになりました。そういった、戦後から続く人種差別というのがありますよね。

―まさに、「intergenerational pain」=何世代も続いている痛み、というのはリナが今回のアルバムで取り上げているテーマのひとつですよね。壮大に始まる1曲目「Dynasty」では、何世代も続く痛みをここで一緒に止めない? と呼びかけていて、リナが新しい時代を牽引するアーティストであることを強く感じました。

リナ:ありがとう。ただ最近は本当にShitだよ、コロナの影響でね。アジア人に対する差別が後戻りしてしまったようにも感じます。アジア人が地下鉄に乗ると、「コロナだろ」って目で見られて、あからさまに避けられたりする。そういう行為を受けると、黒人やイスラム教の人たちなど、何世紀も差別を受け続けているマイノリティたちが今も痛みを感じていることを、改めて考えさせられます。



―「STFU!」を聴いたアジア人以外からは、どういったリアクションがありました?

リナ:「Oh my god、私もMVに出てくるあの白人男性みたいな振舞いをしてた」というコメントももらって、そう気づいてもらえたのはよかったなと思いました。それに、たとえば「非白人の国で、自分ひとりだけが白人だと、こういうふうに感じることがある」といったコメントももらって、いろんな種類のマイクロアグレッションが浮き彫りになりましたね。それもよかったことだと思います。

―人種や階級などが違う人同士のコミュニケーションにおいて、リナが大事だと思っていることはなんですか?

リナ:まず言えるのは、ヘイトは建設的ではない。もし相手があなたのことを受け入れなかったとしても、自分から心を開いてコミュニケーションをスタートすることが、なにより大事だと思っています。私はいつも、自分と他者の共通性を見つけるようにしているし、もし誰かが嫌なことをしてきても、その喧嘩を買うんじゃなくて、「きっとあの人にはなにか嫌なことがあったんだな。そういう態度を取らなきゃいけない感情になってるのは可哀想だな」って、その行動の背景を想像することから始めていますね。

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