The 1975も魅了した日本人、リナ・サワヤマが発信する歪んだ社会へのメッセージ

リナ・サワヤマ(Courtesy of avex)

The 1975らを擁するUKのレーベル「Dirty Hit」より、自身のライフストーリーを描いたデビューアルバム『SAWAYAMA』をリリースする、リナ・サワヤマ。昨年は『情熱大陸』に出演し、「VOGUE JAPAN Women of the Year 2019」も受賞した彼女。4歳半のときに日本からイギリスへ移住し、パンセクシュアルであることを公言している彼女は、常に人種差別や性差別と闘い、自分のアイデンティティがどこに帰属するのかを模索しながら生きてきた。

マイノリティとして生き抜いてきたリナは、社会をよりよい方向へ導くポップスターとして、個人の人格とは関係のない部分で人が人を判断する行為を、この世から一切取っ払おうとしてくれている。国籍、性別、性的指向、年齢、肩書きなど、個人をなにかのアイデンティティに押し込んで話すことを、彼女はよしとしない。そんなリナ・サワヤマが音楽を通して体現する、社会の歪んだ通例を切り崩すメッセージが今、世界中のマイノリティたちを肯定し、なおかつマジョリティたちの目を覚まさせているのだ。

ロンドンはすでに都市封鎖され、日本ではまだ少し呑気な空気が残っていた3月下旬、リナは電話での英語インタビューに応じてくれた。

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日本国内に向けたイントロダクション動画「Who is RINA?」

「え、英語で歌ってるんだ?(その見た目なのに)」「日本人って目が細いよね(目を引っ張る動作付きで)」「あなたを見ると映画『キル・ビル』のルーシー・リューを思い出すわ(ルーシー・リューのバックグラウンドは中国です)」――こういったヘンテコで理不尽な言葉が、白人男性から、悪意なく向けれられる。そんな100秒の映像からスタートするのが、リナ・サワヤマが5カ月ほど前に発表した「STFU!」のミュージックビデオである。レーベルメイトとなったThe 1975のマシュー・ヒーリーは、このMVが公開される数週間前に曲を絶賛するコメントをリナに送ったという。「STFU!」とは「Shut The Fuck Up!」(=黙れクソ野郎!)の頭文字であり、ここでリナは、これまでの人生で受けてきたマイクロアグレッションへの怒りを露わにしている。

「マイクロアグレッション」という言葉は、まだ日本で浸透しきっていないかもしれない。これは、悪意のない無意識的な差別発言や行動を指す。言った本人には「差別してる」という意識がなくとも、無自覚的にその発言の中には差別や偏見が含まれていて、言われた側は傷ついてしまう類のもの。

私がリナの音楽やメッセージに感動とエネルギーをもらう理由のひとつは、私自身も小学~中学時代にアメリカに住んでいた経験があり、当時数々のマイクロアグレッションに心をチクリチクリと刺されてきたからだ。そして日本に帰国してからも、「お箸は使えるの?」「帰国子女は個性的で気が強いよね」といった、愚かな言葉たちをぶつけられてはため息とともに聞き流してきた。まさに、この映像の冒頭のリナのように。



―まず、「STFU!」を書いた動機を聞かせてください。

リナ:「怒る」っていうのは大事なことだと思うんですよね。なので、怒りを曲で表現しようと思いました。サビではハッピーで優しい感じを醸し出しながらも、「Shut the fuck up!」と言っていて。そうやって、怒りながらも少しファニーにするのが、私にとって大事なことでもありました。

―リナは4歳半のときに日本からイギリスへ引っ越して、最初は日本人学校に通っていたものの、小学校の途中で現地校へ転校したそうですね。急に違う文化の学校に入って、戸惑いもあっただろうし、当時からマイクロアグレッションを受けていたのではないかと想像するのですが、いかがですか。

リナ:そう。最初は5年くらいで日本に戻る予定だったから、帰国したときに学校の授業についていけるよう日本人学校に通ってたんですけど、母が私とイギリスで生きていくことを決めて、ビザも取得できたときに現地校へ転校したんです。10歳か11歳のときだったかな。日本人学校にいると「私はみんなと同じだ」と思ってたけど、現地校に行くと自分が周りとは違うことを認識せざるを得ない状況でした。当時は英語も上手くなかったから言語の壁もあったし、文化もすべてが違うと感じましたね。しかも最初は私立に行っていて、クラスが少人数だったから、余計に「違う人種」が目立ちやすかったんです。でも中学は公立に行って、そこではとても素晴らしい音楽やパフォーミングアーツの学科があって、白人以外の生徒がほとんどだったから――アジア人は全然いなかったけど――マイノリティが多くて、コミュニティの一部になれていると感じることができていました。

―ケンブリッジ大学では苦労もあったと、他のインタビュー記事でも拝見しました。ロンドンのエリートや上層階級の生徒たちが多く、人のことを見下したり、マイノリティに対して差別的な行為をする人も、少なくなかったんだとか。

リナ:そうですね。きっと世界中のどこでも、エリート主義の教育現場ではそういうことがあると思うんですけど、当時はフラストレーションが溜まってました。今となれば「面白かったな」と思えるんですけどね。いろんなことに気づかせてくれたし、今の私の価値観はそこで形成されたと思うから。

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