銃乱射事件の教訓はどこへ、アメリカで急増する銃所有者に密着

2020年3月16日、カリフォルニア州サンブルーノのPeninsula Guns and Tacticalで、銃や弾薬を購入するために店頭に並ぶ人々(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

グレッグ・オフナーさんはこれまで、銃が欲しいと思ったことは一度もなかった。38歳の彼は米ペンシルベニア州ウェインの士官学校の出身で、そこで初めて銃器の安全な使い方を教わった。成人してからはよく射撃場に通っていたが、毎回満足してレンタルした拳銃やショットガンを快く係員に返却した。

だが3月半ば、オフナーさんの気持ちに変化が見え始めた。新型コロナウイルス・パンデミックが全米に広がり、オフナーさんが住むペンシルベニア州でもバーやレストラン、店舗が閉鎖された。フィラデルフィア警察が窃盗や詐欺、薬物違反などの非暴力犯罪の逮捕の保留を発表したとき、オフナーさんは社会秩序の転換が間近に迫っているのを感じた。街が突然無法状態になるなら、自分の家は確実に安全な状態にしておきたかった。数日後、オフナーさんは近所の銃販売店へ車を走らせ、拳銃を1丁購入した(第1希望のショットガンは品切れだった)。「妻が妊娠しているんです」と、オフナーさんはローリングストーン誌に語った。「なので僕らが住んでいる地域を考えれば、必要なときにないより、必要でなくても持っていた方が良い物だと思いました」

かつてないほど、国内至るところでアメリカ人が銃を購入している。ニューヨーク・タイムズ紙の分析によると、3月中に販売された銃の数は200万丁近くに上り、1カ月間の売上数としては歴代2位を記録したた。昨年3月にFBIが処理した銃購入者の身元調査は260万件、今年2月は280万件だったのに対し、2020年3月は370万件――この20年間で最も多い。3月16日の週だけでも120万件の身元調査が行われ、FBIのデータによれば、1週間の処理件数としては1998年以来最多だ。弾薬通販サイトAmmo.comの発表によれば、コロラド州、アリゾナ州、テキサス州では2月末以降、弾薬の購入が10倍も増加したという。

社会危機が銃の売上を加速させたのは、今回のパンデミックが初めてではない。9.11同時多発テロの後、銃器の売上は増加した。ハリケーン・カトリーナを受け、ルイジアナ州で銃購入件数が急増した(ハリケーン直後、ニューオリンズ警察によって押収された武器も多かった)。サンディ・フック銃乱射事件では一気に跳ね上がった――2013年1月は、銃の月間売上数としては今でも歴代1位に挙がっている。

Translated by Akiko Kato

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