東芝EMIからワーナーへ ユーミンら時代を彩ったアーティストを近藤雅信が語る



田家:続いて2曲目。小沢健二さんで「強い気持ち・強い愛」。先週「今夜はブギー・バック」を流しましたが今週はこれです。1995年2月発売、「それはちょっと」との両A面シングルでした。

近藤:これは「今夜はブギー・バック」ととても関わりがありまして。ある日、フジパシフィックの朝妻一郎さんからお電話をいただいたんですよ。筒美京平さんが「今夜はブギー・バック」にとても興味を持ってんだよね、「今夜はブギー・バック」を作った人に会ってみたいと言ってて、近藤くん会ってみない? って言われたんです。で、筒美京平さんは僕もとても好きな曲いっぱいあるし、是非お願いしますって言ってお会いしたのがきっかけなんです。会えてすっごい嬉しかったですね。

田家:近藤さんも初めてお会いしたんですか?

近藤:もちろんです。それまでお会いしたこともないし筒美京平さんは表に出てこない人だから、すごい光栄に思って。でも初対面で僕は大失敗しちゃったんですよ。何を失敗したかと言うと、「筒美さんの曲は僕もすごく好きで影響も受けています」と。「特に好きなのは郷ひろみさんの「ハリウッド・スキャンダル」という曲なんですよ」って言ったんです。そしたら一瞬沈黙があって、筒美京平さんが「あれは僕の曲じゃありません」と(笑)。僕は顔面蒼白となり、沈黙が流れて。「あの曲はね、都倉(俊一)くんの曲なんですよ。でもあの曲を僕って思う人はとても多いから大丈夫ですよ」って言ってくださって。

田家:優しいお方ですね。

近藤:そこからお付き合いが始まって、毎月食事に誘ってくださったんですよ。この仕事をやっている人は、良い物を食べて、良い本を読んで、良い映画を観て、良い服を着ないといけませんと。いつも良いものに触れていないと良いものは作れませんよと仰ってくださって。それを機に僕はおいしい物を貪り食って来たんですけど(笑)。そうこうしていくうちに、「筒美京平さんと最近知り合ったんだけど何かやらない?」って小沢くんに訊いたら、「興味あるー!」ということになって。最終的にこの作品に結びついていくんですね。

田家:小沢さんにその話をする時に、彼は嫌って言うかもしれないということも踏まえながら訊くんですか?

近藤:嫌だってことは踏まえながら訊かないですね。嫌だって言っても言わなくてもどちらでも良いというか。とりあえず僕は球を投げてみると。この人に会わせたら面白いだろうなっていうイメージは湧いていたので。もちろん本人が嫌だって言えば無しになるでしょうし、やりたいって言えば良いものになるんだろうなっていう。

田家:なるほどね。とりあえず自分がいいなって思ったことは投げてみると。それがどう返ってくるかはその後の問題だと。

近藤:そうですね。色々な関わり方がある。ミュージシャンによっては自分の中で枠を嵌めていくタイプ、フィル・スペクターみたいなやり方もあれば、アーティストが持っている物の中のパーツと誰かのエッセンスを結びつけることもあるし、その人がやりたい物を120%形にしていくっていう色々なやり方があると思うんですよ。

田家:そういう話を頭に置きながら改めて聴いていただきたいと思います。小沢健二さんで「強い気持ち・強い愛」。先ほど、フィル・スペクターのお話も出ましたが、洋楽の色々なプロデューサーの仕事の仕方ということは参考になったり勉強されたりもしたんでしょうか?

近藤:そうですね、ミュージシャンの周りの人のことには今でもすごく興味がありますし、最近はグリン・ジョーンズ、デイヴィッド・フォスター、クインシー・ジョーンズとか色々なプロデューサーの自伝本も出ているじゃないですか。そういう人たちの自伝本を読んでみると興味深いこともたくさん書いてあるし、スタジオで作っている音と、ちょっとスタジオから離れてA&Rが聴く行為ってちょっと聞こえ方が違ったりするのは、どこでもあることで。どういう風にしたいのかっていうのも関わる人によって違ってくるんだなっていうのは今でも思いますね。

田家:つまり、A&Rっていう仕事のポジションややり方が、アメリカに先例があると。

近藤:基本は、アメリカとイギリスですね。ポピュラー・ミュージックって20世紀に入って、さらに変わってきたものではありますけど、いずれにせよある種のお手本だった国だと思います。

田家:日本だとそういうお手本になる人はいない?

近藤:日本でもいっぱいいますよ。プロデューサーでは、ジャニー喜多川さんとかライジングプロダクションの平哲夫さんとか、ソニーの須藤晃さんとか、エピックの小坂洋二さんとか、ビクターの高垣健さんとか、ポニーキャニオンの渡辺有三さんとか、他にもたくさんいますね。

田家:日本でもそういう人たちがいたということを番組をお聞きのみなさんも念頭に置いていただけると。やがてそういう人たちの特集があるかもしれません。お聞きいただきましたのは1995年のシングル『強い気持ち・強い愛』でした。

Rolling Stone Japan 編集部

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