コロナ危機に打つ手なし、生活崩壊で絶望する音楽家たち「1日で6つの仕事を失った」

新型コロナウイルスのニュースを知ったのは、ボウイのツアーリハーサルのためにロサンゼルスに行ってほしい、と電話で依頼された時のことでした。いままで3〜4回はツアーを行なっていましたが、ここまで大規模なライブはあの時が初めてだったんです。背景幕や照明機材を積んだトレーラーバスが2台ありましたね。

3月11日には、私たちクルーはポートランド(オレゴン州)にいました。ツアーの6公演目です。ツアーの真っ只中だったので、日々の最新ニュースが入ってくるような状況ではありませんでした。公演後に機材類を車に搬入していた時、公演場所だった建物が閉鎖されたんです。チケット売り場のシャッターまで下ろしていました。私のボスは「おい、いったい何事だ?」と言っていました。

次のシアトル公演が中止になったという知らせが耳に入ってきました。それでも、私たちはシアトル行きを決行しました。というのも、その次はカナダ公演が控えていたので。移動を続け、翌朝目覚めた時にカナダ公演も中止になったことを知りました。私たちの判断でツアーを中断あるいは中止したわけではありません。「ムリ」と断ったのは会場のほうなんです。

その後、朝食をとりにいく途中でマネージメント側から電話で「ツアーは中止だ」と言われました。私たちは急いでホテルに戻り、そのあとは帰るためのフライトを手配するのに必死でしたね。誰もが荷造りの終わった機材を解いていました。私物を取り出して、ロサンゼルスであれ、オクラホマであれ、ナッシュビルであれ、それぞれの場所に戻るために。


トニ・グロービスとブランドン・バーニー、2020年3月(Courtesy of Toni Globis)

空港にいるあいだ、次に予定していたジェスロ・タルのツアーも延期になったことを知りました。それだけでなく、いつもなら毎年働きに行く数々の音楽フェスまでキャンセルになりました。普段の仕事先の地元のライブ会場も休業。私は、1日で6つの仕事を失ったんです。

フライトの都合で帰宅するのに3日かかりました。6週間は留守にする予定だったので、腐らせてしまわないようにと当時は家に食べ物をまったく蓄えていませんでした。ドライフードなどは少しありましたが、冷蔵庫のなかを空にした2週間後に帰宅するはめになるなんて、想像さえしていませんでした。

いつもなら、年間プランを立てられます。「このツアーが3週間続いて、そのあとは地元のライブハウスで9公演あって、次にアイツらと6週間のツアーがあるから、いくつかのフェスはこなせるかな」という具合に。でも、現時点では不可能です。それでも、たいていの場合は臨時収入を稼ぐことくらいはできます。イベントが行われている場所のアリーナ会場でトラックの荷揚げ作業をするとか。でも、いまはどこにも仕事がないんです。「とりあえずは、7月を目標にしている」のように、地元のライブハウス経営者は口を揃えて「とりあえず」と言います。それなのに、正式にこの日に営業再開しますという人は誰もいません。

現時点では、7月まで無職です。本当なら3ドアーズ・ダウンのツアーがあったのですが。いまは、夏にはツアーができますようにとひたすら祈るばかりです。ボウイのツアーは9月の振替公演を予定しています。だからと言って、私がクルーとして携われる確証はないのですが。延期発表後の私たちの反応は「ふーん。9月には働けるんだ」程度です。ジェスロ・タルのツアーも9月への延期を予定しています。

Translated by Shoko Natori

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