ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力

「時々、酒を飲んでほろ酔いになって友だちと楽しく踊りたいと思う」

ワインと支援者たちは、立ち上がった人々がデモに参加するだけでなく、銃弾が飛び交い始めても逃げずに立ち向かってくれることを期待している。全ての人がそう考えている訳ではない。民主的な改革を幅広く支持する人たちの何人かと話したが、ウガンダの貧困層の若者たちに闘う気骨があるかと言えば、そうでもないようだ。「ボビらは、戦争を経験したことのない人々が銃声にどう反応するかをあまり理解していない」とカリナキは言う。「そんな世代の人々は、カチューシャ(ロケットランチャー)がどんな音を出すかなんて知らない」

内戦やムセベニ以前の時代を知る世代のウガンダ人は、当時の不安定な時代へは絶対に戻りたくないと思っている。「私は殺人や略奪が横行した酷い時代を生きてきた」と音楽評論家で、デムべFMのパネリストも務めるエドワード・スセンディカディワは言う。「当時は兵士が自宅へ押し入ってきて、何でもかんでも奪い去った。私の父は、『開けてやるから壊さないでくれ!』と叫んでいた。同じ窓を何度も壊されていたので、もう修理するのが嫌になっていたのだ。そんな状況を見てきた私が言いたいのは、2021年の結果がどうなろうが、平和であって欲しいということだ」

結果として、表面上は現政権に反対の立場を取る人たちですら、事実上ムセベニに投票することとなるのだ。ワインは人々に自分の活動を支援してもらうだけでなく、積極的に関わってくれる人の数をもっと増やす必要がある。「大多数の人にとって失うものは何もない」と彼は言う。「警察や治安部隊によって命を奪われる可能性がある状況では、命は無いも同じだ。病院へ搬送されても必要な薬が無ければ意味がない。このような状況下の我々の命には価値が無いように思える」

ワイン自身は失うものが多い。彼は音楽で富を得たが、この2年間は国内でのコンサート活動を禁じられたために、蓄えを食い潰している。「以前のように楽しめない状況だ」と彼は言う。「かつては毎週末にコンサートがあり、収入も多かった。最新型の車に乗り、1億ウガンダ・シリング(約280万円)を現金でポンと払えるような生活だった」

それでもワインはまだ上手くやっている。筆者のウガンダ滞在の最終日、カンパラ市内中心部の南側にあるビクトリア湖畔に位置するワン・ラヴ・ビーチで、彼と会った。広さ6エーカーの敷地に青々とした芝が広がり、椰子の木が並んでいる。15年前に彼がこの場所を購入した時は、ゆくゆくは家を建てて35歳になったら隠居生活をするつもりだった。しかし彼はビーチをオープンし、彼自身のみならず一般にも開放した。1ドル以下で誰でも、アフロビートの流れるビーチで踊り、泳いだりバーベキューをしたり、サッカーやバレーボールをして1日中過ごせる。

ビーチを訪れたのは日曜だったが、ワインはまるで隠居生活を送る人間のような格好をしていた。青い花柄がプリントされた半袖のボタンダウンシャツに半ズボンを履き、黒っぽいレギンスに青いハイトップシューズを履いている。「俺はここを離れたくないんだ」と彼はビーチの方へ手を広げて見せた。かつては毎週ビーチを訪れていたが、今回は約3カ月ぶりだった。彼は友人を招き、林の中でバーベキューをしてヤギの肉やチキンやシーフードを楽しんでいる。

彼は以前と比べておとなしい生活を送っている。自分が始めたことを後悔しても仕方がない。しかし彼は明らかに、過去に残してきた何かを懐かしく感じている。「時々、酒を飲んでほろ酔いになって友だちと楽しく踊りたいと思う。しかし今はできない。自分よりも大きなものを背負い込んでしまっているからね」と彼は言う。引退を撤回したように聞こえる、と彼に伝えると、「問題は、“自分は本当に引退を考えているのだろうか”ということさ」と彼は笑った。「常にね」

Translated by Smokva Tokyo

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