ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力

「ピープル・パワー」をスローガンに掲げて活動するボビ・ワイン(Photo by Isaac Kasamani/AFP/Getty Images)



「当局は俺が人々と接触するのをとても恐れている」

我々はワインのトヨタ・ランドクルーザーに乗り込んで敷地横のゲートを出て、ぬかるんだ細道を進んだ。ワインはハンドルを握りながら、今回のジンバブエ訪問を楽しげに振り返った。「ジンバブエには内緒で入国したんだ」と彼は声を落とす。「ムナンガグワ(ジンバブエ大統領)は、彼の政敵と面会する俺のような人間にいて欲しくないんだ。だから変装しなければならず、まるでジェームズ・ボンドにでもなったような気分だったよ!」

インタビュー当日のワインは、アシスタント1人とボディーガード2人を伴って外出した。彼は次にどこで演説するかを公に告知できない状況の中で、厳しい選挙活動を強いられている。もしも選挙活動を宣伝したら「兵士と警官が来て、俺に挨拶しようと近寄る人は誰でも殴りつけるだろう」とワインは言う(警察当局は、ワインの開催する集会は違法だとしている)。

ここでワインは真顔になり、「当局は俺が人々と接触するのをとても恐れている。だから彼らは俺のコンサートを禁じた。だから俺が教会へ行くと人々がいなくなるんだ。政府は一般市民の動きに過敏になっている。市民を力ずくで押さえつけようとしているのは、政府が市民を非常に恐れている証拠だ」と語った。2020年3月後半、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてワインはピープル・パワー運動を一時休止し、キャッチーな音楽による公共広告をリリースした。


コンサートでパフォーマンスする若き日のボビ・ワイン(Photograph courtesy of Bobi Wine)

ワインが最初に立ち寄ったのは政治とは直接関係のない場所だった。親知らずを抜くためにバジル歯科医院を訪れたのだ。「クリスマスの食事は美味しくいただきたいからね」とワインがジョークを飛ばす。ボディーガードのひとりエディ・ムトウェは、医院へ向かって歩くワインの姿を見て「彼は今もカムヨキャ時代の偉そうな歩き方の癖が抜けない」と笑う。痩せて上品な顔立ちのワインは、背中をやや丸めて頭を前に傾けながら大股でゆったりとした独特な歩き方をする。おそらくムトウェの言うように、カンパラのスラム街のひとつでワインの育ったカムヨキャの環境がそうさせたのだろう。

歯医者を後にしたワイン一行は、彼らが「バラック」と呼ぶ事実上の選挙本部へ向かった。狭いオフィスにトイレがあり、ボクシングのサンドバッグが下がっている。高さ約2mの塀に囲まれたほこりっぽい敷地の周囲には、10人ほどの人間がうろついている。何の変哲もない場所だが、カムヨキャはワインを語る上で重要な街だ。

カムヨキャはいわゆるゲットーだが、単なるスラム街とは異なる。ウガンダの音楽に興味のある人にとってカムヨキャはカリフォルニア州のコンプトンであり、ニューヨークのクイーンズブリッジ団地だ。幹線道路から坂を下ったところでは、男が古い自転車を動力代わりに利用した砥石で長刀を研いでいる。路肩には、青バナナ、スイカ、パイナップルや豆を売る地元の小さな屋台が並ぶ。周囲ではヤギやニワトリがのんびりとぶらぶらしている様子が見える。街の大渋滞をすり抜けられる唯一の方法であるボダボダ(オートバイのタクシー)の一団が騒音と刺激臭の強い排気ガスを撒き散らしながら、通りを猛スピードで行き来している。

ワインはこの街で育ち、音楽作りを始めた。酒屋、ファミリーレストラン、さらには交番の壁にまで「ボビに自由を」「ボビのコンサートを解禁しろ」「ピープル・パワー」などという落書きが見られる。

バラックから数軒先の未舗装の道路を進むと、ワインの兄エディ・ヤウェが2002年に建てたドリーム・スタジオがある。ヤウェは留学先のオランダと米国で音楽制作も学んだ。彼がドリーム・スタジオを立ち上げる前はウガンダ国内にまともなレコーディング設備が無かったため、べべ・クールやホゼ・カメレオンら若手の有名アーティストは隣国ケニアで作業せざるを得なかった。ヤウェのスタジオには防音室が3部屋と大型のミキシングデスクが1台あるだけだが、カンパラでは画期的な設備だ。

ワインも、ヤウェのスタジオでレコーディングした最初のアーティストのひとりだった。ワインは少年時代から兄弟姉妹らと教会で歌い始めた。しかし本気で取り組むにつれ、期待は覚めていったという。「当時は誰も音楽で稼げなかった」とワインは語る。「実際に、音楽は敗者がやるものだと思われていた。だから初めはテープやレコードを売ったり、レンガを作ったり、あれこれ細かい商売をしていた」

Translated by Smokva Tokyo

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