ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力

「ピープル・パワー」をスローガンに掲げて活動するボビ・ワイン(Photo by Isaac Kasamani/AFP/Getty Images)



「最も重要な目的は法治国家体制を取り戻し、三権を分立して機能させることだ」

2017年にワインが初めて国会議員へ立候補した時は、ムセベニ率いる国民抵抗運動党(NRM)が対立候補を支援するために資金をつぎ込んだ。それでもワインは地滑り的な大勝利を収めた。しかし間もなく彼は、議会に幻滅を感じることとなる。まず目の当たりにしたのは、ムセベニが自己の利益のために(そして評判も悪い)、憲法に定められた大統領選出馬の年齢制限を撤廃しようとしたことだ。ワインが何度もパフォーマンスを禁じられた時、議会は彼の音楽活動を許可する決議案を通過させた。「ところが警察は、自分たちは議会の決定に従う必要がない、という態度だった」という。「その時初めて、議会の重要性を認識した」とワインは言う。彼は大統領選への立候補を決断したが、その先には大きな目標がある。「最も重要な目的は、ムセベニの独裁政権を終わらせて法治国家体制を取り戻し、三権を分立して機能させることだ」

人口4500万人ほどの海のないウガンダは、歴史の浅い国家だ。1962年までは英国の植民地のひとつで、他の多くの植民地同様に、無計画に引かれた国境線の内側に含まれる王国、種族、氏族、民族同士には深い歴史的・文化的なつながりがほとんど無い。公用語は英語だが、40以上の言語が各地域で話されている。

近代ウガンダの歴史の大半は、権力と金を巡るグループ同士の争いの歴史でもある。ムセベニが最も反発を受けているのは、彼の政権が、自らの出自であるウガンダ西部のニャンコレ族、中でも特にヘマ族の利益を最優先にしている点だ。前出のカリナキ(ナショナル・メディア・グループ)は、国内の他の民族をないがしろにした「特定の民族による少数の陰謀集団」と表現している。ワインの属するガンダ族はウガンダ国内最大の民族だが、これまで政治的な優位に立ったことはほとんどない。

ワインの弁護士によると、ワインは国会議員へ立候補してから20回以上は逮捕されているという。中でも注目すべきは、2018年8月13日の出来事だ。この日ワインとムセベニは、国会議員の補欠選挙へ立候補したそれぞれが支援する候補者を応援するため、北西部の都市アルアを訪れていた。政府によると、ムセベニの車列への投石をきっかけに警官隊とデモ隊との衝突に発展したという。混乱の中でワインの運転手が射殺されたため、ワインはホテルへ逃げ込んだ。しかし結局は捜索していた軍に発見され、兵士らは客室のドアを鉄棒で壊して押し入り、その棒で彼を殴りつけた。

ワインによると、彼は車に押し込められて虐待され続けたという。「奴らは俺の睾丸を強く握り、銃の台尻で足首を殴り始めた」と、数週間後に語っている。さらに「ペンチのようなもので耳を引っ張られ、背中や股間を殴られ続けた」という。最後に彼は頭を打って意識を失った。彼の他に少なくとも34人が拘束され、多くは暴力を受けた。中には、選挙に勝利した野党側の対立候補も含まれる。ワインは小銃の不法所持容疑で拘束されたものの、すぐに容疑は取り下げられた。ところがその後彼は反逆罪で再逮捕され、約2週間留置されることとなる。当時の事を振り返る時、彼は顔を曇らせた。

「とても酷い思い出だ」と彼は静かに語る。当時の暴力で負った傷は今なお消えずに残っている。「殴られて頭蓋骨を折られた」と言いながら彼は、目の上の傷を指差した。「時々腫れてくるんだ。背中もまだ完全には治っていない。精神的な傷は一生消えないと思う」と彼は言う。つまり「現政権は権力を維持するためならどんなに落ちぶれても構わないと考えている」ということだ。

一連の出来事は海外でもニュースになった。クリス・マーティン、ピーター・ガブリエル、デーモン・アルバーンらアーティストが連名で、ワインに対する仕打ちを非難した。しかし注目を集めるのも、諸刃の剣だった。有名人がワインを擁護しピープル・パワー運動を周知する一方で、人々の活動に対する熱心さは個人崇拝へと向かって行った。カムヨキャのバラックには、10時間かけてワインに会いにきたエンマという男性がいた。彼は、ワインに自分の地元へ来てピープル・パワー運動の支援を呼びかけて欲しいと訴えた。丁寧に応対したワインは、「自分と同じ内容を話す」代理の人間を行かせると言いながらも、やや苛立ちも見せていた。

ワインは、迫害を受けているのは自分だけでないことを知っている。キザ・ベシジェは個人的な犠牲を払い、過去4度の大統領選にムセベニの対立候補として出馬した。彼はレイプや反逆罪などの容疑がかけられて何度も投獄され、一時は国外追放されたこともある。彼は2021年の選挙にも立候補する予定だ。ワインの結成したファイヤー・ベース・クルーのメンバーであるジギー・ウィンは、2019年8月に当局の拷問を受けて殺害されたとされる(政府は、オートバイ事故で死亡したと主張している)。3月に行った記者会見でワインは、ピープル・パワー運動の支援者10人が死亡したり行方不明になり、さらに数十人が留置されていることを明らかにした。

Translated by Smokva Tokyo

タグ:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE