ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力

ムセベニからの依頼で政権に携わるミュージシャンも

ムセベニは、ワインと彼の仲間のアーティストらがもたらす脅威に対抗しようと必死になっているようだ。昨秋ムセベニは、何人かの有名ミュージシャンを大統領の顧問に任命した。キダンダリの人気シンガーで、ロナルド・メインジャのバンドメンバーとしても活動しているキャサリン・クサシラは、カンパラ担当の新たな大統領補佐官に指名された。またドレッドヘアのラスタファリアンで、かつてワインのファイヤー・ベース・クルーの副代表も務めたブチャマンは、ゲットー担当の特使に就任している。さらに、かつてピープル・パワーの支援者でもあったシンガーのフル・フィギュアも、大統領補佐官に任命された。一連の人事はウガンダの貧困層や若者の支持を得るための策略だと考える人間が多い一方で、効果が全く無いとも言えない。

ある晴れた午後、2台の車列でカンパラのゴミ埋立地に隣接したスラム街のカソコソへ向かうブチャマンを追った。背の低いブチャマンは左脚が不自由で、松葉杖を使って歩いている。彼自身は、子どもの頃にウガンダ内戦で銃撃を受けたと話しているが、メディアの報道によれば子ども時代にかかったポリオの影響だという。ワインと音楽活動を共にしたおかげでスラム街でも有名人となった彼は、車から降りると人々に囲まれた。彼は驚くほど素早い身のこなしで泥道を進みながら「ゲットー・パワー!」と叫んだり「パン、パン、パン」と銃声を真似て、人々の注意を引く。人の波は果物売りの屋台や掘立小屋の間を抜け、狭い中庭に差し掛かったところでブチャマンは少し立ち止まり、群衆に向かって話しかけた。その後さらにゲットーの奥へと進むと、草に覆われた前庭に出た。それからブチャマンと彼のスタッフは2本の木の下に並べられた椅子とベンチに座り、人々に囲まれて1時間ほど過ごした。彼のもとには地元の人間が次から次へと訪れ、地域医療センターの建設、学校や職業訓練への寄付、道路の修復、犯罪対策などへの支援を求めた。

ブチャマンは政府を代表して訪問しているが、彼の発言を聞くと、ムセベニや与党NRMを信奉している訳でも無いようだ。「私は彼らの支持者ではなかった」と彼は言う。「今でも私はどの政党にも属していない。ムセベニの下で働いているのは、ゲットーで暮らす人々を助けたいからだ」と、シンガーから政府の特使になったキャサリン・クサシラと同じような主張をしている。ムセベニが駄目だとか無能だとかいうのではなく、問題は彼が組んでいる地方政治家たちの方にあるのだ。「ムセベニはお金の使い道を誤っている。大臣や議員は受け取った金をゲットーに使わない」とブチャマン言う。「ただお金を食い尽くしているだけだ」と言う彼は、自分ならもっと上手くできると主張する。「私はゲットーで暮らす人々の痛みをわかっている」

その日の午後の出来事はパフォーマンス的にも思えるが、ゲットーの人々は、自分たちの声をわざわざ聞きに来てくれる人がいてとても満足そうだった。そこが重要なポイントだ。ムセベニは、ゲットーの人々の票をどうしても必要という訳ではない。また、彼らがワインに投票しようがしまいが関係ない。ただ彼らのことを見ているとアピールできれば良いのだ。ムセベニは、彼らの不満に耳を傾けているとも言えるかもしれない。「ゲットーに多額のお金が流れ込むだろう」とカリナキは言う。「長年の問題を解決する目的ではなく、選挙結果が出てから彼らがゲットーの悲惨な生活に戻るまでの間のタイムラグを作るためだ。ゲットーの問題へお金をつぎ込むのは、銀行強盗が盗んだ紙幣をばらまくようなものだ」

ムセベニの目的はただひとつ。彼を大統領の職から追い落とす要因を排除することだ。アラブの春のような、若者や貧困層による大規模な反乱を避けたいのだ。「ボビ・ワインがもたらすムセベニに対する脅威はひとつだけだ」とマケレレ社会調査研究所のセルンクマは指摘する。「ムセベニにとって選挙は怖くない。ワインの呼びかけで首都カンパラへ人々が集結することが脅威なのだ」

確かにこの10年で、まずはチュニジアとエジプト、そしてブルキナファソ、コンゴ民主共和国、ジンバブエ、アルジェリア、スーダンと、民衆のデモによりアフリカの強力な独裁者たちが次々と失脚した。ワインの選挙活動の狙いは正にそこにある。民衆の勢いをつけて革命が勃発する環境づくりをすることだ。しかし大きなギャンブルでもある。「俺たちは今闘いの真っ最中にいる」とワインは言う。「ムセベニは暴力的な争いを好む。俺たちは論理的かつ精神的で民主的な闘いを選ぶ。ムセベニは闘いを避けられない。俺たちには4000万人以上の味方がいる。カダフィ、ブーテフリカ、オマル・アル=バシールも闘わずにはいられなかっただろう。しかし彼らは続けた」

Translated by Smokva Tokyo

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