苦境に立たされたマーチャンダイザーの挑戦「それでもツアービジネスは不可欠」

2017年のグラストンベリー・フェスティバルで、グッズ売り場に列をなすオーディエンス(Photo by Invision/AP/Shutterstock)



eコマースへの移行を進める業者も

影響を受けているのはアーティストのツアーグッズのメーカーだけではない。Governors  BallやRolling Loud等のフェスティバルのグッズ製造および販売を手がけているThe Bright Pursuitのオーナー兼クリエイティブディレクターのエヴァン・ブレア氏曰く、同社は3月から4月上旬にかけて毎日のようにツアーの中止や延期についての連絡を受け、現時点でのキャンセル数は16件に達しているという。日程が秋に延期されたものを含め、同社は今のところ22のフェスティバルのグッズ販売を担う予定だが、それらが実際に開催されるかどうかは不透明なままだ。

選択肢が少ないなかで、ManheadとBright Pursuitは通信販売に力を入れている。トリー・レーンズの最新アルバム発売に合わせたグッズのドロップに携わったBright Pursuitは、今後数カ月でより多くのインフルエンサーたちと同様の企画を実施する予定だ。

カリフォルニアのオレンジカウンティに拠点を置くグッズメーカーのAbsolute Merchは、何年も前からeコマースへの移行を進めている。創設者でCEOのビリー・キャンドラーは、eコマースはツアーに依存するビジネスよりも遥かに安定していると主張する。同社はパンデミック以前から、損益の75パーセントをeコマースから得ていた。しかし同社はベテランから新人まで様々なアーティストからの数十万ドルの支払い遅延に直面しており、キャッシュフローは停滞してしまっている。「ツアーがキャンセルになり、グッズの代金が支払えないバンドから責任を押し付けられている私たちは、経済的損失を被っています」。キャンドラーはそう話す。

幸運にも、Candlerのeコマースビジネスは順調だという。「クライアントの多くがグッズの通販に注力しようとするなかで、当社の4月の収益は過去最高レベルに達する勢いです」。また彼はこう付け加えている。「先月からはビジネス基盤を完全にeコマースに切り替える方向に舵を切りました。コンサートビジネスが復活すればありがたいことに変わりはありませんが、現実的に言って、どのみち何もかもがそういう(eコマースへと移行する)道を辿っていたはずなんです」

フリーランスのグッズ販売業者たちも影響を受けている。デラウェア州ウィルミントンに住むインディペンデントのマーチャンダイザー、ドミニク・ヴァラキャロ氏はは、収入の75パーセントをツアーに依存している。彼の本職はツアーでのグッズマネジメントであり、今年に20周年記念ツアーを予定していたベイサイドや、バッド・レリジョンとのツアーを控えていたアルカライン・トリオとのツアーから、最大で4万ドルの収益を見込んでいたという。

そういった展望を持っていたヴァラキャロ氏は、家族と住む家を先日購入したばかりだ。しかしツアーによる収益が望めなくなった今、彼の家族は日々の食費や家賃、光熱費の支払いにも苦労している状況だという。現在の唯一の収入源はオンラインストアのMerchnowであり、彼は失業手当を申請するとともに、Live NationのCrew Nation救済プログラムに申し込んでいる。

「バンド側からツアーの中止を初めて告げられたのは月曜の朝でした」。ヴァラキャロ氏はそう話す。「そして金曜の時点で、仕事を共にしているすべてのバンドが同様の決定を下していました。今は何もかもが不透明ですが、私はこの状況が少なくとも今年いっぱいは続くと考えています。私たちには多少の蓄えがありますが、この危機が終わるまで持つかどうかはわかりません。大人数による集会の禁止が解除されても、足を運ぶ人はいないでしょう。8月には事態が改善していると見込んでツアーの再開を検討しているバンドもいますが、ワクチンができるまで外出を控える風潮は続くでしょうから、客足は望めません。私のようなグッズ販売を生業としている人間にとって、それは致命的なことなんです」

Translated by Masaaki Yoshida

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