家入レオがキャリアの節目で見つけた「自分の価値」とは?

雰囲気や空間を表現できるシンガーになりたい

─ただ、この曲ってタイトルが「Answer」なのに、“答えはいらない”と最後にちゃぶ台をひっくり返すじゃないですか(笑)。

家入:ふふふふ(笑)。以前、初めてインタビューさせてもらったライターの方に「過去のインタビューを全て読んできました」と言われて。「とても真摯な方だな」と思うと同時に、自分はもう過去に何を言ったか正直覚えていなかったりするんですよね。それは無責任にではなく、その時その時を真剣に生きているつもりだからなんですけど。過去に「これが答えだ」と思ったことですら変わり続けていくというか。

“笑って また泣いて 繰り返してゆく そうして 生きていく”という歌詞には、同じことを繰り返しながらも人はきっと変わっていくのだな、同じようでいて全く同じなんてことは絶対にないんだよな、という思いを込めたかったんです。一度出した答えも変わり続けていく事、それ自体が今の私が出した「Answer」だと言いたかったんですよね。

─ちなみに前作「未完成」を作っている時は、映画『ジョーカー』や平野啓一郎の『私とはなにか「個人」から「分人」へ』、千早茜『男ともだち』などにインスパイアされたとおっしゃっていましたが、今回はそういう作品ってありましたか?

家入:ロンドンへ行った時に、美術館でウィリアム・ターナーの絵画を観たんです。その瞬間「私、こういう歌を歌いたい」って思ったんですよ。「未完成」では自分を有り得ないくらい赤裸々に表現したから、人によってはそれが重すぎて(笑)、聴かず嫌いにさせてしまったのかも知れないという気持ちが我に返った時あったんです。そんなときにターナーの絵を観て、この柔らかいタッチ、完成しているのか未完成なのか分からない感じ……これってかえって観た人の心の扉を開けてしまえるんじゃないかって。

─未完成だからこそ、こちらの気持ちを投影しやすいというか。

家入:そうなんです。ターナーは、色や光、その場の雰囲気を表現しようとした作家らしく、それってまさに自分がこれからやりたいことに近いというか。「愛」や「希望」をストレートに歌うのではなく、聴いた時「あれ? これは希望について歌っているのかな?」と想像する余地があるような、雰囲気や空間を表現できるシンガーになりたいんです。それと、彼はロマン主義の画家で、生前に何度もスタイルを変えていて、そこも自分と似ている(笑)。惹かれるには、それだけの理由がちゃんとあるんだなと思いました。

─今回、5曲のカバーを収録した経緯についても教えてもらえますか?

家入:いつかカバー・アルバムを出したいと思っていて、その先駆けというか。今回はリクエストを募り、その中から自分なりに選ばせていただきました。皆さんが自分に何を求めているのかが、カヴァーの方が分かりやすいなと思いましたね(笑)。10000通以上のご応募をいただいたことにも胸が熱くなったんですけど、「ああ、こういう歌を聴きたがっているんだ」みたいな新鮮な驚きもありました。

─「秋桜」(山口百恵)のアレンジがとても驚きましたし、新鮮でした。

家入:山口百恵さんは以前から大好きで、自伝や写真集も持っていたのですが、せっかくカバーさせていただけるのなら「畏怖」の気持ちのまま終わらせるのはもったいないと思い、リスペクトを持ちつつ新しい聴き方を提案できたらいいなと。思い切ってああいうアレンジにさせてもらいました。憧れだったソイルさん(SOIL&"PIMP"SESSIONS )とご一緒することが出来たのも感無量ですね。

─カバーするのに苦労した曲、特に思い入れのある曲は、どれになります?

家入:どの曲も楽しかったんですけど、「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」(YEN TOWN BAND) は、原曲のBPMで歌うとどうしてもCHARAさんそのままになってしまうと思ったので(笑)、テンポ速くして、アレンジもストリングスとピアノ主体にしてみました。それから「悲しみの果て」(エレファントカシマシ)は、自分で言うのもなんですけど、めちゃめちゃいい仕上がりで(笑)。今回、新しくご一緒させていただくアレンジャーさんがほとんどだったのですが、この曲はいつものバンド・メンバーと一発録りしました。ホームに戻ってきた気持ちでレコーディングができましたね。

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