松田聖子、松本隆との史上最強コンビで描いた新たな女性像



この曲も好きなんですよ。1983年6月発売の7枚目のアルバム『ユートピア』より「ハートをRock」。このアルバムのジャケットが素晴らしい。水の中から顔を出している聖子さんの髪の毛が濡れているんですよ。あどけないんだけど色っぽい、21才の色々な面を一枚で表現していますね。素晴らしいジャケットです。1983年の邦楽で一番売れたアルバムが今作で、アルバムアイドルとしての地位を固めた。アイドルはシングル盤という概念が彼女の中にはなかった。この「ハートをRock」は、作詞が松本隆さんで作曲が甲斐祥弘さん。この曲はなんでシングルにならなかったのかな? と思うんですが、あまりにもモータウン調過ぎたかなっていうのと、やっぱり歌のテーマ、ストーリーでしょうか。眼鏡をかけた、哲学の先生みたいな彼がクラシックのコンサートに誘うんです。でも眠たくてしょうがないって歌っているわけで、クラシックの人に顰蹙を買うんではないか? ソニーはクラシックのアルバム出してるしなと、思ったりしました(笑)。あなたを私好みに変えたいっていうアイドルの歌ですよ。1960年代には、あなた好みの私になりたいっていう奥村チヨさんの歌がありましたが、この曲は全然違います。主体性がハッキリとある女の子の歌。お聴き頂いたのは1983年6月発売の7枚目のアルバム『ユートピア』より「ハートをRock」でした。



これがオリジナルですね。1983年8月発売の『SWEET MEMORIES』。サントリーのCMソングでした。12枚目のシングル『ガラスの林檎』のカップリングだったんですけども、あまりに問い合わせが多いので両A面として発売されました。サントリーからの注文が二つあったって松本さんが仰っていましたね。一つ目はジャズっぽい曲で英語が入るものにしてくれ、二つ目は歌い手を匿名にしたいということでした。それに応えたのが作曲の大村雅朗さんですね。この曲ができた時に発注したディレクターの若松さんも松本さんも聖子さんも驚いたんだそうです。「こんな大人っぽい曲を彼女が歌えるんだろうか?」、彼女は「私がこれを歌えるんだろうか?」と思ったと聖子さんも書いていましたね。大村さんが、他の人がやっていないことでこういう曲にしたんでしょう。松本さんが日本語で歌詞を書いて、途中の部分を英語に直した。その原詞が日本語で残っていたので、改めて歌い直したというのが今月の前テーマでお聴きいただいている、あのバージョンですね。松本さんが聖子さんに歌詞を提供するにあたって意識していたことがあって、ちょっと先に石を投げるんだよって言っていたことがありました。それは成長ということなんですが、歌い手として、アイドルとして、等身大の人間としてのちょっと先、それが音楽的な成長、人間的な成長につながっている。そういう歌詞、アイドルにしたいんだと仰っていましたね。この曲は大村さんが投げた、ちょっとどころではない相当先の歌だったんでしょうが、彼女は見事に歌い切りました。成長ということで言うと、先ほどご紹介した1983年6月発表の『ユートピア』と12月に出た『Canary』はそんな傑作だと思っております。アルバムタイトル曲をお聴きいただきます、「Canary」。

Rolling Stone Japan 編集部

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