松田聖子、松本隆との史上最強コンビで描いた新たな女性像



1983年12月発売、8枚目のアルバム『Canary』より「Canary」。これは作曲が聖子さん自身なんですね。SEIKOとクレジットされております。聖子さんは、アルバム『ユートピア』の中の「小さなラブソング」で詞の方は提供されているんですが、アルバムの中に自分の曲が入ったのはこの曲が初めてです。この曲の舞台もヨーロッパです。シトロエンっていう車が出てくるので、フランスの港町でしょうね。二人で暮らした部屋を後にするわけです。都会のどこかでピアノを弾いて歌うのが夢だと言う女性の主人公ですね。歌の中に男性のセリフも出てきます。「自由に跳べばいい」。一つの歌の中に男女のパートがあるのは太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」がそうでしたね、松本さんらしい。松本さんはです、このアルバム、この曲の歌詞は自分らしいなと仰っていたことがありました。この曲の主人公は一人で生きる自信を手にしているわけです。それを"あなた"からもらっているんですね。先週、松田聖子さんは女の子の生き方を歌ったアイドルだという話をしましたが、このアルバムの時期にはもう飛び立っている。一人で生きていくということが自分でできるようになっているという主人公ですね。アイドルの成長というよりも、20才、21才の女性としてのちょっと先の成長というのが歌われているんじゃないかと思います。こんな曲もありますね、「Wing」。



1983年12月発売、8枚目のアルバム『Canary』より「Wing」。作曲が来生たかおさんなんですね。曲も大人っぽいでしょう。歌の主人公が半年間アメリカで暮らしていて帰国する女性。アメリカで暮らしたのも、わがままでアメリカに行ってしまったという設定ですね。それで東京の空港に戻ってくる。映画のワンシーンのようです。中森明菜さんの「北ウィング」はこの後ですよ。でもそれぞれの歌が、ストーリーというほど長くはないですけど、一本の映画に匹敵するような奥行きのある設定になっていますね。歌の舞台が広がっていますね。アルバム『ユートピア』とかは特に「マイアミ午前5時」や「セイシェルの夕陽」とかある、「Canary」の中にはフランスの港町もあるし、アメリカ暮らしというのも設定になっていますね。リゾートのヒロインからちょっと大人になって、一人で海外で暮らしてみたいというところまで変わってきた。1980年代前半というのは、若い女性が一人で海外に行って自分を見つめ直すということが流行った時代ですね。その頃の女性の憧れを体現していったという風に言っていいでしょう。戦後の日本の女性で、その時代の多くの女性の夢を体現した人は、美空ひばりさんとユーミンだと僕は思っていたんです。でもユーミンが作家として加わって、さらにわかりやすく色々な人に広く夢を与えたのが松田聖子さんだった。松本隆と呉田軽穂と松田聖子、史上最強トリオかなと思ったりしております。21才、失恋も大人っぽいです。1983年10月発売、「瞳はダイアモンド」。

Rolling Stone Japan 編集部

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