ルーツロックの第一人者、ルシンダ・ウィリアムスの「怒り」が全米を震撼させた理由

ルシンダ・ウィリアムス(Photo by Danny Clinch)

「米ローリングストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大なソングライター」にも選出されたルーツロック/オルタナ・カントリーの第一人者、ルシンダ・ウィリアムス。彼女が先頃発表したニューアルバム『Good Souls Better Angels』が大きな話題となっている。67歳を迎えた彼女の音楽を今こそ聴くべき理由とは?


米ローリングストーン誌のレビュー
「間違いなく近年の最高傑作」

思い切って漂白剤を体内に注入さえすれば安心だ、とドナルド・トランプ大統領が語った翌日、ささやかな反トランプ批評が現れた。これぞ間違いなく、今の我々に必要なものだ。ルーツロックを象徴するアーティスト、ルシンダ・ウィリアムスによるニューアルバム『Good Souls Better Angels』は、彼女にとって間違いなく1998年の代表作『Car Wheels on a Gravel Road』以降の最高傑作だ。綿密に研ぎ澄まされ、文学的な要素も多分に含みつつ、カタルシス的なブルースの叫びでもあるようだ。苦労の絶えない友人に始まって、疫病神の元恋人、そして「Man Without a Soul」にも歌われているホワイトハウスの現住人まで、彼女が悪とみなすものへの煮えたぎる怒りにあふれている。



湿っぽくも辛辣なこのブルースは、苦痛をもよおさせるほどスローなペースで進む。ウィリアムスは棘のある言葉を一語一語、確固たる冷酷さと執念をこめて歌い上げる。たとえ曲のメッセージ("Hey, asshole, you suck”/ヘイ、そこのクソ野郎、あんた最低)が明確な社会批判として響かなくとも、胸の奥に眠るリアルな怒りがそこはかとなく伝わるように。「世界中の金を全部集めても/この穴は決して埋まらない」と彼女は歌う。歌詞がトランプ大統領の最終的な結末にさしかかると(「この物語はどう終わるのか/問題はどう終わるかじゃなく/いつ終わらせるかだ」)、彼女が歌う運命はいまよりもずっと陰鬱で、暗澹としつつも、11月の大統領選挙の結果よりはマシなようだ。

物憂げなウィリアムスの歌い方は年を重ねるにつれさらに磨きがかかり、それぞれの母音はたっぷりうねる川面のよう。楽曲にも、官能的な渇きがふんだんに盛り込まれている。あり得ないほど胸を焦がすラブソングを何十年も書き続けてきたアーティストならではだ。『Good Souls Better Angels』に色濃く表れる本能的な緊迫感には、本人も驚いたに違いない。反体制的な力強い政治ロック「You Can’t Rule Me」や、暴力的な人間関係に背を向ける姿を激しく歌った、痛烈な「Waking Up」。かと思えば、穏やかな楽曲もある。心温まる優しい「When the Way Gets Dark」は、人生最悪の葛藤(個人的なものであれ、政治的なものであれ)もいつかは記憶のかなたに消えるだろう、共に戦いさえすれば痛みや悪にくじけることはない、と語りかけているかのようだ。

Translated by Akiko Kato

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