ピンク・フロイド『狂気』知られざる10の真実

5.「マネー」はブッカー・T&ザ・MG’sの影響を受けている

ピンク・フロイドにとって初の全米TOP20ヒットとなった「マネー」(1973年7月のBillboard Hot 100で13位を記録)は、『狂気』の中で最もロックでアグレッシブな曲だ。トリッキーな7/4拍子(ギターソロの部分だけは4/4拍子に変わる)、ウォーターズによる印象的なベースリフ、ギルモアのむせび泣くギター、ディック・パリーによる突風のようなサックス、そしてレジの開閉音と硬貨の摩擦音のコラージュループを特徴とするこの曲は、メンフィス産R&B界の巨匠ブッカー・T&ザ・MG’sにインスパイアされているという。一見そうは思えなくとも、彼らからの影響は顕著だとギルモアは話している。

「何にどう影響されたのかを具体的に説明するのは難しいんだ」彼は2003年に本誌にそう語っている。「私はブッカー・Tの大ファンだった。10代の時に『グリーン・オニオン』を買ったんだ。2〜3年続けた前のバンドではビートルズやビーチ・ボーイズの他に、Staxのソウル系アクトの曲を演奏していた。「グリーン・オニオン」もステージでプレイしたことがあるよ。私はそういう経験をたくさんしていたから、自分が受けた影響をストレートすぎない形でバンドのサウンドに反映させることができたんだ。うまくいったと自分では思っているよ。建築を学ぶ白人のイギリス人の学生がファンクをやるっていうのは変かもしれないけどね、実際それほどファンキーでもないしさ(笑)」




6. ポール・マッカートニーのインタビュー音源はボツにされたが、アルバムにはビートルズの曲がひっそりと登場している

『狂気』の楽曲の結びつきをより強化する目的で、ロジャー・ウォーターズはアビーロード・スタジオの従業員やツアークルー、その他スタジオで働く様々なスタッフにインタビューを行うことを思いついた。他愛のないトピック(好きな色や食べ物など)やシリアスなテーマ(狂気や死について)を含む質問に答えてもらい、そのインタビュー音源の一部をファイナルミックスに挿入するというのが彼のアイディアだった。当時アビーロードでウイングスのアルバム『レッド・ローズ・スピードウェイ』の仕上げに取り組んでいたポール・マッカートニーもインタビューに応じたが、ウォーターズは彼の回答は使えないと判断した。「回答者の中で唯一、彼は『演じる』必要を感じたようだった。言うまでもなく、それだと無意味だったんだ」ウォーターズはピンク・フロイドの伝記作家John Harrisにそう語っている。「彼が『愉快』であろうとしたことは興味深かったけど、それは私たちが求めていたものではなかった」

しかしなお、マッカートニー(の音楽)はアルバムにわずかに貢献している。アルバムの最終曲「狂気日食」の終盤の部分をよく聴いてみると、ビートルズの「涙の乗車券」のオーケストラバージョンのパッセージが流れているのがわかる。アビーロード・スタジオのドアマンGerry O’Driscoll(彼はこの時に次のような名言を残している。「実のところ、月に暗黒面なんていうものは存在しない。あらゆる面が闇だからだ。太陽が月を照らしているに過ぎないのさ」)のインタビューを録音していた際に、スタジオ内で流れていた同曲の音をマイクが拾ってしまったのだ。


Translation by Masaaki Yoshida

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