XTCのアンディ・パートリッジが語るコロナ感染、バンド末期の記憶、災難続きの屈折した人生

ライブ活動停止とバリウム中毒

―80年代にツアーを一切やらなくなったのはなぜですか?――それがきっかけで作曲活動に力を入れていったようですね。ライブ用のアレンジを考えなくてよくなったわけですから。

アンディ:ステージが楽しめなくなってね。最初のころは楽しかったよ。駆け出しのころは、人々の注目を浴びるのは楽しかった。なんかゾクゾクしたね。観客は僕たちが何者かも、どんな曲をやるかも分からずポカンとしてて、それが最後には熱狂して歓声を上げるんだから。あれはかなりゾクゾクしたね。

でも、そういうことを5年もやってるのに、金が一切入ってこない。本当さ、大げさに言ってるわけじゃない。5年間ツアーして、僕たちの懐には一銭も入ってこなかったんだ。金が動いているのは分かっていた。見ればわかるさ、「5000人収容のハコで、チケットが1枚Xドルで、ソールドアウト。6回公演で、会場の規模はこうこうこう。ってことはフムフム、なるほど、これだけ金が稼げるわけか。その金はどこに行ったんだ?」

つまりはこういう筋書きなんだよ。死ぬほど働かされて心底ボロボロになったのに、労働に対する対価は支払れない。そりゃあ不満にもなるさ。この手の話は君も子供のころから山のように聞いてきただろう。これこれこういうスターが搾取されて、これこれこういうスターが馬車馬のごとく働かされた。それが僕たちの身にも起きたわけさ。とくに僕は貧乏神をひいた。インタビューでメディアが話を聞きたがるのは僕だったからね。


XTCは1982年にライブ活動を停止

アンディ:それに加えてまさにダメ押しだったのが、僕自身、自分がバリウム中毒だってことを知らなかった。12歳のころ、ちょうど13歳になる手前のころかな、母親の精神病が相当悪化して、僕もかなり参っていた。それでさ。「ああ、なんて可哀そうな子だろう、母親がイカれて精神病院送りになった。きっとこの子も上手く対処できそうにない。彼にもバリウムを与えておこう」

それで12の時にバリウムを与えられた。それからずっとバリウム漬けだよ。知らない間に中毒になってたんだ。毎日ひとつかみ飲んでた。ちっとも効果はなかったけどね。自分には当たり前のことが、実は中毒だってことが分からなかった。言ってる意味わかるかな。

―それで突然バリウムを断ったわけですね。どんな影響がありましたか?

アンディ:1979年に結婚したんだが、でかい全米ツアーの最中、新婚ほやほやの妻は僕が毎日バリウムを飲むのが気に入らなかった。なにしろ1錠じゃない、何錠も飲んでたからね。LAだかどこだったか覚えてないが、何かのコンサートで演奏した時だった。ショウのあと友人らと飲みに出て、ホテルに戻って、こう聞いた。「おい、薬はどこだ?」

すると彼女は「これからはもう飲まなくていいのよ」「なんだって? どういう意味だよ」って言うと、彼女は「全部トイレに流しちゃったわ」 ホテルにあるような、でかい業務用のトイレでさ。

僕はブチきれた。「くそっ! 肝心要のやつがなくなっちまった! でかい全米ツアーはまだ途中だってのに。ちくしょう、どうすりゃいいんだ」って考えたのさ。相当頭に来てたので、大暴れした。ホテルの客室をめちゃくちゃにしたのは、生涯あの時だけだ。本当に申し訳なかった。

気持ちが落ち着いたところで、こう考えた。「待てよ、彼女が正しいかもしれない。あんなもの必要ないだろ。なんの役にも立ってないじゃないか。何かいいことあったか? ゼロだ。もう薬は要らない。僕は大丈夫。きっと上手くいく」

―でも上手くいかなかったんですね。

アンディ:脳みそが溶け出してさ。自分が誰なのかも思い出せないし、どこにいるのかも思い出せないような状態だった。たしかあれは大雪の中、東海岸を走っていた時だったと思う。ニューヨーク州の内陸かどこかだった。僕は「なあ、小便がしたい。ここでバスを停めてくれ」と言って、車から飛び降りて、雪の積もる中をぶらぶらさまよった。膝のあたりまで雪に埋もれながら、空の星を見上げてこう考えていた。「僕は誰だ? 名前はなんだっけ? ここはどこだ? 何か変だぞ。あそこのバスに乗っている奴らはだれだ?」

みんながツアーに連れて行こうとするのを、僕は必至で抵抗した。「いやだ、ちくしょう、僕は家に帰る」 とにかく体が動かなくて、ベッドから起き上がってサウンドチェックに行くこともできなかった。次の公演に向かって車を走らせる間、自分が誰かも分からない始末さ。

結局、とてつもない禁断症状を克服するのに何年もかかった。13年も中毒だったところへ、いきなりドカン! そりゃあ電車も柵に衝突するわな。

Translated by Akiko Kato

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE