クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察

ここで少し補足します。「JBJBって言ってるけど、どの時期のJBだよ」と思われた方がいるかもしれません。想定しているのは、『ColdSweat』がリリースされた1967年からコリンズ兄弟がバンドに在籍していた1971年頃です。まさにこの時期のスタイルが各パーツが全体を構成する機械仕掛けのファンクであったと考えています。



一般的なポップソングの形式は、人の一生の相似形になっていると良いでしょう。ある日生まれて、浮き沈みを経験し、酸いも甘いも噛み分けて、ある日死んでいくという。ファンクは生も死もないループ的な音楽です(実際は始まりと終わりがあるわけですが)。生命というよりは機械。ファンクは機械の内部構造をむき出しにした音楽と言えるかもしれません。それぞれのパーツが組み合わさって、それらが機能するところを見せています。むき出しになった内部構造をリズムの前景化と言いかえることもできるでしょう。

なぜこのユリイカ体験が、クラフトワークの他の曲ではなく「電卓」だったのかといえば、おそらく各フレーズのサブディビジョンが16分音符でかつシンコペーションが駆使されていたからでしょう。ワンコードであったことも重要です。こうしたファンクとの直接的に類位があったからこそピンと来たと言えます。

もう少し言えば、我々がぼんやりと「グルーヴ」と呼んでいるものは、身体性に負うものだと考えがちですが、曲のデザイン自体に宿るものであるということを、ドイツ製のロボットたちから学びました。マン・マシーンなくしてセックス・マシーンなし。順番は逆だし、個人的な体験に根ざしたものゆえ、この標語に一般性はないのですが、クラフトワークの音楽と接していなければ、「セックス・マシーン」の聴こえ方もまったく違ったであろうと思われます。




鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」

トリプルファイヤー公式tumblr

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