ライブ配信の収益化を実現させるには? オンラインパフォーマンスの鍵は「希少性」

ライブ配信の「可能性」と「問題点」

サーモンがやや興奮気味に指摘するのは、ライブ・コンサートを収録する際に聴衆を誘導せずに済むことによって映像作家たちに開かれる、クリエイティブな可能性だ。「これはきちんとした公演だ、〔ファンとして〕喜んでお金を払いたくなる、という事実を確立することが大事なんです」と彼は言う。「これまで私たちが無料で配信してきたようなコンテンツとはまったく異なるとすぐに感じられますよ。ああ、なんということか、業界の人間として抱える大きな悩みのタネといえば、私たちは気づけばヴィジュアルコンテンツをInstagramやらFacebookやらそこらじゅうでタダで配信してしまってるってことです」

DICEは、マーリングの行うような有料のライブ配信コンサートが、伝統的なコンサート産業が再開しだしたあとも評判を呼ぶだろうと予測する――持続的で有意義な、新しい収入源をパフォーマーたちにもたらすだろうというのだ。「単にいまの時期だけのことだと考えていたら、私たちはこれほどのリソースを割きませんよ」とハッチオンは述べて、こう続ける。「これは価値あるものであって、無料で配信し続けるだけではいけないとみんなが気づくには、こういうショックが必要だったんだと強く思います。私たちはいまでも、課金しても大丈夫なんだという信用を築くためマネージャーたちと共に努力しているところです」

サーモンは「半年から一年のうちに、私たちはこれ[訳注:有料配信に対する信頼]をきわめて迅速に確立できると考えています。ですから、ライブ部門が通常通りに戻るころには、正当な収入源として、またアーティストたちが活用できるオルタナティブで付加的な戦略として認識されているはずです」ともコメントする。加えて、「文字通り、やってみながら作り上げているところです。ルールなんてありません」とも。

ところがルールはあるのだ。著作権の分野においては。サーモンは、美麗に撮影され演奏されたマーリングのコンサートは、将来的に末永く収益化できるかもしれないという。しかし、ライブ配信の急増に伴い、歴史的な音楽産業の諸権利をめぐるレギュレーションが問い直されていることも認めている。

「グレーなエリアはたくさんあります」とサーモン。ちなみに、彼のチームはコンサートの記録の将来的な利用に向けた権利処理を行うため「深堀り」しているのだという。彼はこう付け加える。「権利がどうなるかは生で放送しているのかどうかによってもやや変わってくるし、ジオロックや時差を理由に遅延させるか否かでも変わってくる。検討しうる観点は幅広く存在しますね。たとえば、公にチケットが売り出されているイベントか? これについては『はい』ですね。あるいは、イベントは放送されるのか? どういうもので、どのように扱われるべきか?」

さしあたっては、こういった頭痛の種も後回しにしておけるだろう。数千に及ぶマーリングのファンたちは、音楽産業に対してはっきりしたメッセージを発しているのだ。アーティストのパフォーマンスをスクリーン上で見ることは、生で見るパフォーマンスに喜んで払うだろうチケット代の、少なくとも一部分を払うくらいには価値があるのだ、と。

ハッチオンは語る。「DICEで私たちは、取引しているすべてのヴェニューと毎週連絡をとっています。彼らは口を揃えて、ライブ配信は再オープンしたときに[事業にとって]不可欠だ、と言っています。ライブ配信は将来的に、それによってヴェニューが家賃を支払えるようなものになるでしょう。これは業界のエコシステム全体にとってとても良いことです。さらに本当に力を与えてくれるのは、ファンによって支払われた金銭が直接アーティストに届くということです」


●日本もこうなる? 全米初「ソーシャル・ディスタンス・コンサート」の一部始終

筆者のティム・インガムはMusic Business Worldwideの創設者であり発行者。同メディアは2015年以来、ニュースや分析、雇用に関する情報をグローバル産業に提供してきた。ローリングストーン誌に週刊コラムを連載している。

Translated by imdkm

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