コロナ感染、65歳以上の高齢者に対する偏見と差別意識

コロナウイルスと老いには共通する部分がある

高齢者は若者ほど価値がない、と考える人が大勢いるのだから致し方あるまい。「30~40歳の10年のほうが、80~90歳の10年よりも、はるかに重要だと思われています」とヒルシュベルガー博士は言う。「でも果たしてそうでしょうか――命は命、どれも価値あるものです」。ラモス博士によれば、ウイルスと治療配分をめぐって現在行われている議論の多くは高齢者の命を軽んじているという。「いったん立ち止まって考えてみるべきでしょう。パンデミックによって知らぬ間に、老いることは社会に貢献することが何もないことだ、というステレオタイプを定着化するかもしれないのです」

だが、高齢者の存在を「他人ごと化」すれば、いずれ自分たちの身に返ってくる。「コロナウイルスと老いには共通する部分があります。どちらからも逃れることはできません。事実、COVID-19は年齢や地理的条件、その他の特性に関係なく、誰にでも甚大な被害をもたらしています」。アメリカ退職者協会(AARP)のCEO、ジョー・アン・ジェンキンス氏はローリングストーン誌にこう語った。「高齢者差別とは不思議な現象です――自分自身の未来に対する差別なのですから。すべての答えは、自分と他者を大事にすること。我々はみな一心同体なのですから」

人間である以上、好き好んで自分の死について考えたがる人はいない。だが、COVID-19によってそうせざるを得なくなっている――どの年代の人々も。「死を否定することは、ある種の高齢者差別です。死を受け入れるようになれば、お年寄りを見ても『将来の自分の姿だ』と思えるでしょう」とヒルシュベルガー博士。「ですが死とのつながりを否定すると、もっとも脆弱な人々に否定的な態度を抱くのです。ここに矛盾があります。一方で、誰もが健康で長生きしたいと望んでいるにもかかわらず、いざこのような状況に置かれると、他の人が長生きする可能性を即座に否定するのです」

では、COVID-19収束後には一体どうなるのだろう? 特定の年齢層を激しく差別して、他の人々よりも価値がないという見方が広まれば、容易に覆すことのできない危険な前例を作ることになる。「こうした高齢者差別の一部がずっとついて回るのではないかと懸念しています」とヒルシュベルガー博士は言う。「これほどまでに存続の危機が高まると、つい線を引いて明確に区別したくなります。『この人たちは自分たちのグループには属さない、年寄りで、自分たちとは違うから、いなくなっても構わない』というように」

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Translated by Akiko Kato

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