The 1975インタビュー「ルールを設けないこと、それが僕たちのルール」

『仮定法に関する注釈』の音楽的背景(1)

『仮定法に関する注釈』については、バンド史上最大の問題作という見方が既に固まりつつある。これでもかというほどに長尺で起伏の激しい本作は、よりダイレクトで一貫した2018年作『ネット上の人間関係についての簡単な調査』を補完するが解決するものではないという。そのタイトルにさえ、前作の題名が予感させたクリーンで整然とした結論に対する期待を「はぐらかす」意図が感じられる。「(前作のタイトルには)リスナーのレコードに対する印象を操作する意図があった」ヒーリーはそう話す。「エッセイみたいなもので、リスナーには作品を解釈するための枠組みが与えられていた。このアルバムはその逆で、だからこそ『仮定法に関する注釈』なんだ。文字通り何の意味もないんだよ」

期待されていることと真逆のことをするというやり方は、もはやヒーリーの専売特許だ。瞬くようなマキシマリスト的ポップロックサウンドで、80年代のニューウェーブリバイバルのシーンに登場した2013年発表のデビュー作『The 1975』以来、それは現在まで続いている。バンドのヴィジョンにおいて、同作のサウンドは「特異なもの」だったとヒーリーは語っているが、以降の作品にもそういった方向性は見られ、『仮定法に関する注釈』からシングルカットされたデュラン・デュラン調の「イフ・ユーアー・トゥー・シャイ(レット・ミー・ノウ)」はその最たる例だ。

「1枚目は他のアルバムとは全く違うやり方で制作されたんだ」そう話す彼は同作について、初期のEP群と以降のアルバム3作における「グリッチーで奇妙な」サウンドとは趣旨が異なると主張する。「1stアルバムを作ってるっていうよりも、過去10年間の成果をコンパイルしてるって感じだった。金のかかったセッションを無駄にする手はないとばかりに、僕たちはビッグなサウンドのレコードを作ることにした。それに対する世間の反応は『なんだ、この80年代のポップバンドは?』ってな具合だった。そうじゃないと僕は思ってるけど、実際はそうなのかもな」

『The 1975』がジョン・ヒューズにインスパイアされた、若年期のロマンスと反抗を描いた印象主義的作品だったとすれば、『仮定法に関する注釈』は彼らが出会ったマンチェスターのWilmslow High Schoolで過ごした日々と、それを彩った音楽とパーティの数々にインスパイアされた、超現実的で対極的なレコードだ。2年前のアナウンス当初に「イギリスの夜を描いたレコード」とされていた本作は、英国で活況を呈するハウスやガレージのシーンからの影響が顕著だが、バンド初期のインスピレーション源だったエリオット・スミスやブライト・アイズ等の「エモコア」サウンドに対するアンチテーゼという側面の方が強い。




本作では全編にわたって、ヒーリーとダニエルにとってのヒーローであるブライン・イーノ、そしてスティーヴ・ライヒが広めたアンビエントミュージックからの影響がうかがえる。彼は最近、自身の対談ポッドキャストシリーズに両者をゲストとして迎えているほか、「ミュージック・フォー・カーズ」(同フレーズは2013年発表のバンドのEPで初めて登場しており、本作と前作の制作期間中にはアンブレラ・タイトルとして用いられていた)はイーノの『Music for Airports』と『Music for Films』へのオマージュだと明かしている。

「何の接点も持たないアンビエントは、僕のお気に入りのアートフォームだ」ポッドキャストでうかがわせている音楽オタクぶりと同様のトーンで、彼はそう話す。「アンビエントは聴き手に解釈を要求する。言葉や映像によるヒントもなく、ただ何かを曖昧に提示する。それを感じ取ろうとすることで、聴き手は心を動かされるんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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