The 1975インタビュー「ルールを設けないこと、それが僕たちのルール」

『仮定法に関する注釈』の音楽的背景(2)

『仮定法に関する注釈』におけるもうひとつの新たなインスピレーションはモダンなカントリーであり、その影響は楽曲のコードやヒーリーの歌い方にも現れている。それは「ロードキル」「ジーザス・クライスト・2005・ゴッド・ブレス・アメリカ」「ザ・バースデー・パーティー」等でとりわけ顕著だが、これらの曲にはその根底にあるアメリカ文化に対する批評という側面もある。ヒーリーにとってカントリーは、自身のルーツであるエモに近いものだという。

「僕が好きなカントリーの曲には本物の真摯さがある」彼はそう話す。昨年彼は、故郷で生きることと死ぬことについての音楽という点で、カントリーとポップパンクは共通しているとツイートして物議を醸した。彼が育った環境では、カントリーを耳にする機会は少なかったという。「僕にとってカントリーは、常にどこかエキゾチックで画期的なものだった」



「トゥナイト(アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・ユア・ボーイ)」は、『君が寝てる姿が…』に収録されている「サムバディ・エルス」や、『ネット上の…』における「シンセリティ・イズ・スケアリー」で確立したポップなR&B路線を踏襲している。テンプテーションズの「ジャスト・マイ・イマジネーション(ランニング・アウェイ・ウィズ・ミー)」をサンプリングしている本作のハイライトである同曲で、ヒーリーはスローなジャムビートに合わせて、過去の恋人への思いをスムーズに歌い上げる。

「あの曲は『カレッジ・ドロップアウト』期のカニエとバックストリート・ボーイズを足して2で割った感じだ」彼はそう話す。「子供の頃の僕にとって、リッチなメロディを持った音楽といえばブランディやホイットニー、SWV、TLCとかだった。『クレイジーセクシークール』なんかは聴きすぎて、レコードがすっかり擦り切れてるよ」。The 1975の音楽性はR&Bならぬ「ギター&B」としばしば形容されるが、ヒーリーはそのレッテルを気に入っている。その一番の理由は、バンドにおけるギタープレイがコンテンポラリーなR&Bに大きく影響されているからだ。



1枚のアルバムとしてはインスピレーションが雑多すぎると感じるかもしれないが、それはThe 1975にとっては極めて自然なことだ。「このアルバムには4つか5つのフェーズがある」そう話すのは、本作をヒーリーと共同プロデュースしたダニエルだ。「以前にも増して忙しないことは事実だけど、それは僕たちの野心の表れなんだよ。ルールを設けないこと、それが僕たちのルールなんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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