5. 「駆け足の人生」はグレン・フライがドラッグの売人とかわした会話にインスパイアされた
イーグルス自身が認める通り、彼らは成功を収めた結果、違法薬物、ホテル破壊、手の込んだ性戯まで、ありとあらゆる放蕩に精通するようになった。そうした深夜の営みが、ときに印象深い歌詞を生み出している。アルバム中でも際立った楽曲のひとつ「駆け足の人生」(原題:
Life in the fast lane)は、グレン・フレイがドラッグの仲介人と車に乗っていたときの悲惨な体験にインスパイアされたものだ。
「ドラッグディーラーが運転するコルベットの助手席に座り、ポーカーをしに行くところだった」と彼は2013年のドキュメンタリー作品『駆け足の人生〜ヒストリー・オブ・イーグルス』で回想している。「ふと気づいたら、車は時速140キロを超えていた。待ってくれ、やりすぎだ。『おいおい!』と呼びかけると、彼はニヤニヤしながらこう言ったんだ。『
Life in the fast lane!』。これは曲のタイトルになりそうだと思った」[※fast laneは「追い越し車線」を意味する〕
●イーグルスのグレン・フライ:基本の20曲フライはこのフレーズを何カ月も温めていた。そこからバンドのリハーサル中、
ジョー・ウォルシュのギターから強烈なリフが奏でられると、そのフレーズにフライは思わず立ちすくんだ。彼はウォルシュにもう一度演奏するよう頼み、これこそが
「Life in the fast lane」なサウンドだと即座に悟る。この曲はそこから育っていった。最終的に出来上がった曲は、
バンドを取り巻くドラッグまみれの現実と隣り合わせで、フライの気分はよくなかった。「レコーディング中、この曲はほとんど聴くことができなかった。当時はいつもハイになっていたから、この曲は気分が悪くなるんだ」とフライは1979年、ローリングストーン誌に明かしている。「コカインはいいものじゃないというの伝えたかった。あれは習慣性がある。背中の筋肉もダメになるし、神経も、胃もめちゃくちゃにして、被害妄想にかられるようになる」
6. ドン・フェルダーは当初、「暗黙の日々」を歌うはずだった本作でフェルダーはタイトル曲に加えて、バンドが荒々しいサウンドを披露する冷酷なナンバー「暗黙の日々」(原題:Victim of Life)にも貢献している。「僕らはカントリー・ロックを離れて、よりヘヴィな方向に進もうとしていた」と彼はSongfactsで語っている。「それで僕は、ロックンロール的な方向性のアイディアを16~17曲くらい用意した。『暗黙の日々』はそのひとつなんだ。スタジオに入って5人でライブ録音したのを覚えているよ。ライブセッションでやらなかったのはリード・ヴォーカルとコーラスのハーモニーだけ。それ以外のパートはすべてライブ録音だった」
この曲の起源に敬意を表して、アルバムのランアウト・グルーヴ(曲が終わった後もレコード針が回り続ける部分)には、
「暗黙の日々」をイーグルスの5人でライブ・レコーディングことを示す「V.O.L. is a five piece live」というフレーズが誇らしげに刻印されている。ビル・シムジクによって刻まれたこのメッセージは、スタジオでのイーグルスが冷静すぎてソウルがないという批判に対して中指を突き立てるものだった。
この曲の最初の数テイクではフェルダー自身がリード・ヴォーカルを担当したが、バンドメンバーのなかには出来栄えに満足しない向きもあった。「ドン・フェルダーの才能はギタリストとしてのもので、シンガーではなかった」とフライは『
駆け足の人生〜ヒストリー・オブ・イーグルス』で語っている。ヘンリーも共鳴するように、「彼はこの曲を1週間のうちに何十回も繰り返し歌ったが、このバンドの基準には達していなかった」と語っている。
ヘンリーがリード・パートを録音しているあいだ、そのことを夕食中の
フェルダーに知らせる役目を任されたのは、イーグルスのマネージャーであるアーヴィング・エイゾフだった。「いくぶん苦い薬だった。ドンにこの曲を取り上げられたように感じた」とフェルダーはドキュメンタリーのなかで語っている。「でも、僕とドン・ヘンリーのヴォーカルを比べたら、議論の余地はなかった」