新型コロナ、重傷者の治療薬として話題の「デキサメタゾン」とは?

4月21日、米ニューヨーク州ブルックリンのベテランズ・アフェアーズ・メディカルセンターで先日人工呼吸器を外すことができた新型コロナウイルス感染患者に向かって親指を立てる医師(Photo by Robert Nickelsberg/Getty Images)

ステロイド系抗炎症薬のデキサメタゾンが新型コロナウイルス感染症患者の死亡率を減少させるというニュースが世界中を飛び交っている。果たして奇跡の薬として新しい治療薬になり得るのか?

炎症を抑える効果があるとして1960年代初頭から使われ続けている安価なステロイド剤が新型コロナウイルス感染症患者の命を救う新たな治療薬として全米で話題になっている。だが、人々が期待していたような奇跡の薬ではない。薬の名はデキサメタゾンといい、既存の治療法の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する効果を試す世界最大規模の臨床試験で使用されている複数の薬のひとつだ。現地時間6月16日の朝、英オックスフォード大学が主導する無作為化臨床試験「リカバリー・トライアル(RECOVERY=Randomized Evaluation of COVID-19 Therapy)」は、薬を投与した場合の死亡率が人工呼吸を必要とする重症患者の場合は1/3、酸素吸入を受けている患者の場合は1/5減少するという予備段階の結果を発表した。だが、少なくとも今回の臨床試験の詳細を明らかにする査読済みの論文が発表されるまでは、結果に対して慎重な姿勢をとるよう専門家たちは人々に警鐘を鳴らす。そもそも、デキサメタゾンとはいったいどんな薬で、新型コロナウイルス治療にどのように役立つのだろうか? さっそく紐解いていこう。

デキサメタゾンとは?

デキサメタゾンは、副腎皮質ホルモン剤(脳からの指令により腎臓の上にある副腎から分泌されるホルモンの役割を果たす薬で、ステロイドとも呼ばれる)の一種で、米ミネソタ州の総合病院メイヨー・クリニックによると、ぜんそく、リウマチ、多発性硬化症、重度のアレルギーをはじめとするさまざまな症状の治療に使われてきた。新型コロナウイルス感染が爆発的に広がりはじめた頃、チャールズ・パウエル教授のような医療専門家にとって新型コロナウイルスそのものではなく、ウイルスへの反応として生じる炎症と免疫反応がコロナ患者に中等度〜重度の肺疾患を引き起こしていることは明らかだった。ニューヨーク市の統合的医療ネットワークのマウントサイナイ・ヘルスシステムの肺疾患・救命救急・睡眠医学部門長と、同じくニューヨーク市にあるマウントサイナイ・ジューイッシュ・ヘルス・レスピラトリー・インスティテュートのCEOを兼任するパウエル教授は、中国武漢市で発生した初期ケースでは、中等度〜重度の肺障害を訴える患者の治療薬としてステロイド剤が有効という可能性があったことを本誌に語った。

さらに、デキサメタゾンは安価で世界のどこにいても入手できる薬だ。コロナ患者に投与される量の1日の金額はおよそ6.79ドル(約670円)で、英BBCが報じたところによると、およそ44ドル(約4700円)でひとりの患者が救える計算になる。

「リカバリー・トライアル」の成果は?

「リカバリー・トライアル」の一環として、およそ175の英病院の1万1500人を超える入院患者が臨床検査の対象となった。この検査には複数の部門があり、各部門が新型コロナウイルス感染症に対する既存の治療薬の効果を調べていた。デキサメタゾンもそのひとつである。臨床検査の対象となった患者のうち、無作為に選ばれた2104人にデキサメタゾンが投与された。コロナ治療として当時定着していた治療薬のみ(臨床検査中の薬は対象外)を受けた4321人の患者と比較したところ、10日にわたってデキサメタゾンを投与された患者の死亡率が人工呼吸を必要とする重症患者の場合は1/3、酸素吸入を受けている患者の場合は1/5減少する結果となった。

「『リカバリー・トライアル』の予備段階の結果により、デキサメタゾンが重度の呼吸器合併症を発症した患者の死亡率を減少させることが極めて明確になりました」とオックスフォード大学の医学・疫学教授で、今回の研究を主導するマーティン・ランドレイ教授は声明を発表した。「新型コロナウイルス感染症は世界規模の病です。死亡率を実際に下げる結果を出せた薬がすぐに入手でき、世界的にも安価であることはすばらしい」。

・米テキサスの医師、トランプ大統領推奨の未承認薬「抗マラリア薬」を新型コロナ患者に投与

Translated by Shoko Natori

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