白人アクトが黒人を踏み台に ポップミュージックにおける「搾取と強奪」のシステム

1950年代に「ポップ=白人」のオーディエンス向けに、黒人アーティストによるシングル曲のカバーを数多く発表したパット・ブーン(Time Life Pictures/Pix Inc./The LIFE Picture Collection/Getty Images)

「業界と世間に蔓延する人種差別によって、ブラックミュージックはマーケティングから切り離され、不当な扱いを受けてきた」――音楽業界では現在「アーバン」という言葉の是非が問われているが、白人のアーティストが中心の「ポップ」というカテゴリーでは、黒人アーティストの功績を軽視する傾向が根強く残っている。

過去2週間に渡って、音楽業界では「アーバン」という言葉の是非について議論が交わされている。ある人々は「ブラック」の婉曲的表現であるはずのその言葉が、黒人のアーティストや業界人を守るという本来の機能を果たしておらず、むしろ彼らにとって障害となっていると主張する。一方で、その言葉が「黒人のエグゼクティブたちが音楽業界において存在感を発揮し、メジャーレーベルが軽視していたブラックミュージックのビジネスを成功させるために生まれた」とする意見もある。Republic Recordは「アーバン」という言葉の使用を撤廃すると発表したが、Live Nationは方針を変更する動きを見せていない

しかし、この議論には最も重要な争点が欠けてしまっている。「アーバン」「ブラックミュージック」「ヒップホップ・アンド・R&B」等、レーベルによってその部署の名称は違うが、それらの音楽がポップミュージックとは異なると見なされ、平等に扱われていないことは共通している。白人が大半のポップのアーティストは、ヒップホップやR&Bのアーティストよりも大きなファンベースが期待できるとして、ラジオで強力にプッシュされ、マーケティングにはより多くの予算が注ぎ込まれる。

「アーバン」カテゴリーを廃止しても、「ポップ」というジャンルの定義を見直さない限り、真の変化は訪れないだろう。アデルとジャズミン・サリヴァンが同じ曲を歌い、それぞれのパフォーマンスが甲乙つけがたかったとしても、前者は世界中のあらゆるマーケットにリーチするのに対し、後者は特定の都市に住む黒人のリスナーたちが対象とされてしまう。

人種差別が組織構造の深部に根付いているという事実から、音楽業界は目をそらし続けてきた。しかし過去数週間、業界はかつてないプレッシャーに晒されている。「『ポップ』という言葉も撤廃されると想定しよう」ベテランプロデューサーでレーベルオーナーのNo I.D.は先週、AWALのA&R部門代表Eddie Blackmonがホストを務めたオンラインセミナー、WebinA&R Sessionsの場でそう語った。「レーベルの担当に『新しいレコードはポップだ』なんて言うと、『黒人のアーティストがポップのフィールドに行くにはステップを踏まないと』とか言われる。(レコード会社は黒人のアーティストを)一番大きなマーケットに売り込もうとしないんだ」

No I.D.が批判したそういった体制は、今日の音楽業界の起源に根ざしている。「業界と世間に蔓延する人種差別によって、ブラックミュージックはマーケティングから切り離され、不当な扱いを受けている」90年代にReebee Garofaloが発表したエッセイ『Crossing Over: From Black Rhythm & Blues to White Rock ‘n’ Roll』にはそう記されている。「(ブラックミュージックの)除外と希釈を制度化する慣習やメカニズムは、時代とともにその形を変化させ続けているが、現在もその大部分は見直されていない」

Translated by Masaaki Yoshida

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