チェスター・ベニントンの悲劇から3年、グレイ・デイズとして「復活」するまでの物語

グレイ・デイズ(Photo by Anjella/Sakiphotography)

リンキン・パークのヴォーカル、チェスター・ベニントンが亡くなる直前まで再結成を夢見ていたバンド、グレイ・デイズのアルバム『アメンズ』(原題:Amends)が6月26日にリリース。突然の訃報から約3年を経て、10代のチェスターが残したメッセージが現代のサウンドで蘇る。本作の制作背景を、日本盤ライナーノーツを執筆した音楽ライターの宮原亜矢が解説。

チェスター・ベニントンが突然この世界に別れを告げた2017年7月20日から早くも3年の月日が経とうとしているにも関わらず、未だに私はリンキン・パークのアルバムを大きな深呼吸をして覚悟を決めなければ聴くことが出来ない。SNSを通して目にするファンの声の中には聴くことすらも出来ない人も目にするが、そんな彼らの気持ちが痛いほどに分かる。チェスターの死から約3カ月後の2017年10月27日(現地時間)にハリウッドで開催された追悼コンサート「Linkin Park & Friends Celebrate Life in Honor of Chester Bennington」で私が文字通り泣き崩れたのは、ステージ中央でスタンドマイクとそこに当たったスポットライトとともにインストゥルメンタルで観客が合唱で応えた「ナム」。今まで当たり前のようにチェスターの歌声を堪能していたこの曲をもう生で観ることが出来ないのだと突きつけられたように思えたからだ。チェスター・ベニントンのいなくなった世界は相も変わらず、大きなライトがひとつ、消灯のままだ。

そんな彼がリンキン・パークで金字塔を打ち立てる前に所属していたバンドがグレイ・デイズ。そのメンバー達が当時のチェスターの音声を基に、過去2枚のアルバムリアレンジと再レコーディングをしてリリースしたアルバムが『アメンズ』だ。



このアルバムでやっとチェスターを葬送できる

1ファンとしてこのアルバム企画を知った時に過ったネガティブな思いは、もしかすると他のファンの方にも共通するかもしれないので、まずはそこからクリアにして行きたい。

この企画はチェスターの遺志に反するものではない。むしろ、彼の遺志を継いだものといっても過言ではない。というのもグレイ・デイズの曲を再レコーディングしてアルバムをリリースしようとコアメンバーのショーン・ダウデル(Dr)に提案したのは、他でもないチェスターだったのだ。残念ながらその提案をした僅か1カ月後にチェスターは旅立ち、同年9月に予定していた、ショーンと共同経営していたタトゥーショップCLUB TATTOO15周年とバンドの2ndアルバム『NO SUN TODAY』20周年記念のリユニオン・ショウもその日を迎えることが出来なかった。彼の賛同なくしてこのアルバムの企画、誕生はなかっただろうし、グレイ・デイズがSNSで付けているハッシュタグ「#foryouchester」そのままに、メンバーがチェスターに捧げた作品なのだ。

「このアルバムを送り出すことでやっとチェスターを葬送することが出来る」といったコメントをしているショーンだが、まさに、バンドメンバーをはじめ、KORNのブライアン“ヘッド”ウェルチや、ジェイムズ“マンキー”シャファー、チェスターのサイドプロジェクト、デッド・バイ・サンライズのメンバーで元オージーのライアン・シャック、ヘルメットのペイジ・ハミルトン、ブッシュのクリス・トレイナーや女性シンガーLPことローラ・ペルゴリッジをはじめとするゲスト陣、そしてチェスターの実息、ジェイミー・ベニントンなど、この作品に携わった人々の声や音の端々から、アルバムのアートワークさながらにチェスターに花を手向けるような哀悼の思いに溢れている。チェスターの母、スーザンもこのアルバムに込められたチェスターに対する愛情、そして遺族の悲しみを癒す思いに触れ、感謝と敬意を示したアルバムでもあると語っている。



「Soul Song」のMVはチェスターの息子、ジェイミー・ベニントンが監督を務めた

単なる元メンバー、元共同経営者という関係性を超えた深い絆を感じるチェスターとショーンだが、それもそのはず。彼らの出逢いは1992年。チェスターが15歳で高校生、ショーンは17歳の頃。ショーンのバンドのヴォーカル・オーディションに参加したチェスターは、ショーンの発言によれば「体重40キロ位でカーリーヘアの上に度のキツい眼鏡をかけていて、17歳の自分が考える理想的なバンドのヴォーカルのペルソナではなかった」そうだが、そんなことがどうでもよくなるほどの素晴らしい歌唱で合格を勝ち取ったとのこと。しかしバンド活動はチェスターの父親の承諾が必要だったらしく、ショーンはチェスターと共に彼の自宅のリビングルームで15歳の少年がバンド活動をしても足を踏み外さないことを約束させられたとのこと。

そんな風にして繋がった2人なので、1993〜98年というバンドの活動期間はリンキン・パークと比べれば短いものではあるが、チェスターにとってグレイ・デイズは彼をロックスターへの道へと誘った重要なチャプター1。当時の音源を既に聴いたことのあるコアなファンの方を除いて、世界中のチェスターのファンが今回このような形でリンキン以前のチェスターに触れ、10代の頃から既にあの唯一無二の歌声が仕上がっていたことに、少なからず驚きを隠せないことだろう。晩年と比較すれば鋭角で肩に力が入っている印象はあるものの、これが10代のチェスターのヴォーカルとは俄かには信じがたいほどのスタイルが確立されているのだ。

繰り返していうが、このアルバムで聴けるチェスターの歌声は当時のままである。バンドがリリースした『Wake Me』(1994年)、『No Sun Today』(1996年)といった90年代の楽曲を、ヴォーカル以外の部分を再録音と再構築する形で1枚のアルバムに仕上げている。

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