加熱する音楽著作権訴訟、ストリーミング各社とソングライターたちの全面戦争

音楽出版社側のプランは、故意的に途方もなく高いレートを狙うことだ。イズラライト会長曰く、すべてが同期化された現在のアメリカのライセンス費は、音楽出版社(ならびにソングライター)とレコードレーベル(ならびにアーティスト)によって大まかに折半されている。だが音楽ストリーミングとなると、この数式は大きく変わってくるのだ。音楽出版社とソングライターに支払われる金額がSpotifyの収益(市場シェアで割る)の10〜15%という法定レートであるのに対し、大手レコードレーベルの取り分(市場シェアで割る)は52%と言われている。

大まかに言うなら、大手レーベルと所属アーティストの懐には現在、アメリカの音楽出版社がSpotifyのような音楽ストリーミングサービス会社から支払われる4〜5倍の金額が入っているのだ。だがそもそも、Spotifyの収益の50%以上を音楽出版社が手に入れるというアイデアは、この数年に実現可能なのだろうか?

イズラライト会長は、レコードレーベルにSpotifyの収益の52%がすでに入っているなか、音楽出版社にも50%以上が入るようでは計算が合わない点も十分承知している。それでも、音楽出版関係者やソングライターが音楽業界の反対側にいるレーベルやアーティストといった同業者たちと最低でも同額を主張する権利はあると語る。

「我々が50/50であるべきだと言っても、それが一夜に実現するなんてことはあり得ません」と会長は続けた。「レコードレーベルをはじめ、誰かが許容できる変化としては大きすぎますから。でも、少なくとも釣り合いを取っていくうえでの原動力にはなります。レコードレーベルに52%が入るなら、(音楽出版社およびソングライターの)15%から折半にまで引き上げる余地はあります。最終的にどのような結果になるかはわかりませんが、15%ではなく52%に近い数値になればいいと期待しています」。

会長は次のように言葉を加えた。「我々は何も、レコードレーベルの取り分を減らせと言っているのではありません。そこは我々の関心事ではありません。我々の関心事は、楽曲のしかるべきビジネス対価を得ることです。楽曲はレコードと同じくらい重要だと自由市場で言われるように、それを証明する例がいくつもありますから」。

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レコードレーベルの社長たちは、音楽出版社が音楽ストリーミングによる収益というパイの特大スライスを求めている状況を快く思わないかもしれない。なぜなら、音楽出版社に入る金額が飛躍的にアップすれば、レコードレーベルに入る金額が減る可能性もあるからだ。世界3大音楽出版社が世界3大レコード会社と同じ親会社の傘下にある点を踏まえると、レコードレーベル側の予測はとくに興味深い。

誰がどれくらいの大きさのスライスのパイを手に入れるかという議論は、イズラライト会長に言わせれば、不平等というひとつの理由に起因している。レコードレーベルはアメリカの音楽ストリーミングサービス会社とロイヤルティ率について自由に交渉できる一方、音楽出版社はレートに支配されている。音楽ストリーミングサービスから音楽出版社とソングライターが得るメカニカルロイヤルティを決めるのはCRBだが、Spotifyなどから両者に支払われるパフォーマンスロイヤルティというもうひとつの著作権使用料は、“同意判決(訳注:当事者間の合意による判決で、独占禁止法などの違反についての是正の約束を取りつけたうえでなされる公訴の取下げ)”という別の制度に縛られている。その結果、音楽出版社はブロードキャストミュージック(BMI)と米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)という2つの実演権団体にSpotifyなどとのパフォーマンスロイヤルティの権利交渉を頼らざるを得ず、デジタル権利を部分的に除外して自ら交渉の場に立てない状況に置かれているのだ。

今後12カ月にわたってアメリカのソングライターが置かれる状況をさらにドラマチックにするかのように、この“同意判決”はいま、米司法省の調査対象となっている。予測される結果としては現状維持、良くてもマイナー変更と言ったところだろう。それでも、司法省がいっそ“同意判決”を取り下げるという可能性もわずかにある。実現すれば、イズラライト会長と音楽出版社関係者は大喜びするだろう。

イズラライト会長は次のように語る。「現代のストリーミングの仕組みについて我々がもっとも不服に感じているのは、レコードレーベルの著作権が完全なる自由市場で交渉されていることです。規制もなければ、政府による価格コントロールもありません。レコードをSpotifyに使ってほしくない場合、レコードレーベルはNOと言えますが、音楽出版社は言えません」。会長はさらに続ける。「(音楽ストリーミングサービス)は我々が好むか好まざるかは別として、BMIやASCAPを通じてパフォーマンスライセンスがもらえます。それだけでなく、これも我々が好むか好まざるかは別として、CRBを通じてメカニカルライセンスまでもらえるんです。我々は、こうした状況に甘んじなければならないのです」。

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Translated by Shoko Natori

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