ハイムが語る、野心的なアルバムと確固たる自信「最高のロックを作るのは女性」

二人のプロデューサーが語るハイム

パンデミックの影響を一部受けた2カ月の延期を経たいま、彼女たちは『ウーマン・イン・ミュージック パートⅢ』を世界に向けて放つ決断をくだした。アルバムは大分前から予告されており、2019年6月には、ハイムはアルバムからの最初のシングルをリリースしていた。ルー・リードのフレーズを引用した「サマー・ガール」で、レコーディングしてマスタリングを済ませてからほんの数週間でリリースした。「あの過程で経験した興奮で、言わばアルバム全体の方向性が決まった」とダニエルは語る。

これは7年前の彼女たちのメジャーレーベルデビュー『デイズ・アー・ゴーン』がたどった経緯とは正反対だ。「私たちは長いことあそこに収めた曲を温め続けてた」ダニエルは付け加える。「私たちは契約を得るずっとずっと前から、あの曲たちをロサンゼルスのクラブで演奏してた――私たちが『ザ・ワイアー』を書いたのは2008年だった」。「サマー・ガール」まで、と彼女は語る。「曲を書きあげて数日足らずで世界にリリースしようと決めるなんてことは一度もしたことがなかった」



元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリ、そして長きにわたるコラボレーターであるアリエル・レヒトシェイドと共にプロデュースされた『ウーマン・イン・ミュージック パートⅢ』では、これまでハイムを特徴づけてきた、強調されたパーカッションが少なくなっている――「私たちにとってはとても難しかった。というのも私たちはみんなドラマーだし、たくさんシラブルを詰めるのが好きだから」とダニエルは語る。ドラムのサウンドはそれ自体もっとアコースティックなものになり――バンドはそれを、レッド・ホット・チリ・ペッパーズでチャド・スミスが叩くエコーするスネアに例える――、エレクトロニックなアクセントもひとたび挿入されたときにはもっと奇妙でもっと刺激的だ。たとえばラヴ・ソングの「アナザー・トライ」に登場するきらめくようなトランペットや、「3AM」のPファンク的な押しつぶしたようなベース。

「ただダニエルにギターを持ってもらって、座ってソロが必要なところで弾いてくれるように頼むだけというときもあった」とバトマングリは語る。「あっという間のことだ――彼女は1つか2つのテイクで、アイコニックでありながらも彼女らしいものを書いてしまう」彼いわく、自分はバンドがライヴを演奏するのを見て感じる「ゆるさや自由の感覚」を捉えたかったのだという。それでいて彼女たちは、曲を書く段になるときちょうめんで、「数学的な脳を使う」のだ。

アルバムはまるきりジョニ・ミッチェルのように聴こえる。当然、『WIMPIII』のなかにはこのフォークの伝説へのリファレンスがいくらかある。他の者へのリファレンスよりもよりはっきりとしたかたちでだ。アコースティックな楽曲「マン・フロム・ザ・マガジン」で性差別主義者の音楽ジャーナリストに立ち向かうにあたり、ダニエルは厭世的かつ疲弊しきったように聞かせるミッチェルの能力を自分に憑依させ、それでもって獲物を仕留めにかかる。


「過去には、私たちが音楽に生きる女性であることで多くの侮辱を耐えてきたけど、ありがたいことに今はそのことについての会話もあり、変化が起こり始めているみたい」と、三女のアラナは語る。(Photo by Yana Yatsuk for Rolling Stone)

時折、アルバムはバンドのこれまでのリリースよりも暗く、淀んだサウンドを響かせる。ダニエルのパートナーであるレヒトシェイドは、ハイムの前作、2017年の『サムシング・トゥ・テル・ユー』の制作中に精巣がんと診断された。その経験が今作の歌詞の内容を特徴づけたのだ。だとしても、音楽のなかに聞かれるダニエルの直截な自己表現の仕方のおかげで、そんなテーマもあらゆるリスナーに刺さるものになるのではないかとレヒトシェイドは考えている。

「彼女のことをよく知っているだけに、信じられなかった。彼女は、自分が感情的に経験したことをあれほど明晰に、新しく賢明な声で表現した」がんから快復したレヒトシェイドはこう語る。「楽しかったり悲しかったりおもしろい話がある人はたくさん知ってる。それを歌ってしまえる人もなかにはいる。けれどそれをすべてつめこんで名曲にできるというのは特別なことだ」

Translated by imdkm

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