ラン・ザ・ジュエルズが語る「クソみたいな世界」への回答、前進のサウンドトラック

俺たちのレコードは未来を予想している

ー『RTJ4』の制作に着手した当初、指針となるようなラインや曲、あるいはビートなどはありましたか?

El-P:制作を始めたのは2018年末だ。ツアーを終えて自宅に戻ったばかりで、俺たち2人とも疲れ果ててた。それから俺は『カポネ』のサウンドトラックを作り、結婚も経験した。マイクはマイクで忙しくしてたよ。マイクがブルックリンにある俺たちのスタジオに来た時、俺は5〜6カ月分の作業成果をストックしてた。最初にレコーディングしたのは、アルバムの冒頭2曲「Yankee and the Brave」と「Ooh LA LA」だった。マイクが気に入ってくれるといいなと思いながら、「Yankee」を聴かせた瞬間に……。

キラー・マイク:「こりゃやべぇ!」って感じだったな(笑)

El-P:あの2曲はレコーディング初日に仕上げた。聴き返しながら、2人とも大いに興奮してたよ。思い描いてたエネルギーの土台になるものができたっていう手応えを感じて、俺たちの意見は一致した。前作が炎と水、そして曇り空のイメージだったのに対して、今作にあるのは燃え盛る炎だけだってね。



ー「Yankee and the Brave」で描かれる架空のショーは、アルバムのハイライトだと思います。ドラマ化して、ブルーレイのボックスセットとして出すべきでしょう。

El-P:(笑いながら)考えとくよ。マイクも俺も80年代育ちだから、ああいうショーにすごく馴染みがあるんだ。

キラー・マイク:『ナイトライダー』『特攻野郎Aチーム』『爆発!デューク』とかな。

El-P:あの曲は80年代の特撮モノへのオマージュなんだ。だからアルバムの最後にスキットが入ってるんだよ、次回へ続くって意味さ。曲を聴き終えると、「Yankee and the Brave」っていうドラマの1話を見たんだって気づく。でも実際には、あの曲はアルバム全体のトーンを定める調子笛みたいなものなんだ。俺たちが子供の頃に慣れ親しんだ、ああいう特撮モノのイントロ感を出したかったっていうのもあるね。

ー何者かに追われる2人、マイクが車のボンネットの上を滑る画が目に浮かぶようです。

キラー・マイク:そんでグランド・ナショナルの運転席に飛び込むんだよな。

El-P:でもって俺がやつよりいいカッコしようとして、ボンネットの上を滑るんだけどカーブミラーを壊しちまって、顔面から着地するんだよな。バッチリじゃんか。



ー2016年に『Run the Jewels 3』がリリースされて以来、様々なことが大きく変化しました。現在の状況を考えれば、吐き出すべき怒りに満ちているはずです。フリーフォームな憤怒に満ちた約4年を経て、あなた方は今作の制作中、どのようにして怒りの矛先を定めたのでしょうか?

キラー・マイク:君の言う通りだ。でも黒人のコミュニティに関して言えば、俺たちは歴代の数多くの大統領たちに対して憤りを覚えてきた。俺の祖父母はニクソンに怒ってたし、俺の両親はレーガン政権の政策に失望してた。ビル・クリントンは黒人の味方だと公言しておきながら、彼は刑務所におけるプログラムを過去のどの大統領よりも多く認可し、ストーン・マウンテンの連合軍モニュメントの前でスピーチを行った時には、黒人と白人の囚人たちを自分の支持者として利用した。トランプを擁護する気はまったくないけど、黒人のコミュニティが政治家に失望させられるのは今に始まったことじゃない。

ーおっしゃる通りだと思います。怒りの起源はトランプではない。

キラー・マイク:そういうことだ。同時に俺は、多くのアメリカ人が共通の敵を見据えている今の状況を頼もしく感じてる。黒人の権利を主張する抗議デモは、女性の権利や、合法不法問わずすべての移民の権利など、数多くの基本的人権の擁護に結びついてる。「もうたくさんだ」っていう思いを、大勢の人々が共有してるんだ。とにかく、黒人のコミュニティは生涯を通じて憤りを覚えてるんだよ。それは容易に共感できるものじゃない。

El-P:俺たちがガンに冒されていることを証明した腫瘍、俺はずっとトランプをそんな風にみなしてた。長い間この社会を蝕み続けてきた病の象徴、それがあいつなんだ。でも実際には、このアルバムを作ってる間に俺とマイクが立ち向かおうとしてたのは、ある1人の男なんかよりもはるかに巨大なものだったんだよ。

新しいアルバムには、やつの政策に起因する具体的な問題に言及してる部分がいくつかある。「Walking in the Snow」のヴァースで俺が言わんとしてるのは、国境付近が強制収容所も同然になってるってことなんだ。そういう状況を作り出したのはやつじゃないけど、移民を檻に閉じ込めるっていう考えをあいつが再燃させたことは確かだ。それについては特に怒りを覚えてる。でも今回のアルバムを、2020年における問題だけを扱うようなものにはしたくなかった。

キラー・マイク:2020年だけにフォーカスしても、限定的なものにはならないだろうけどな(笑)。



El-P:このアルバムは今の時代にリンクしてるけど、そうじゃなかったらいいのにって思うよ。これがノイローゼ気味のイカれた2人の妄想で、全ては俺たちの頭の中で起きたことに過ぎなかったとしたら、マジで最高さ。そうだとしたら、現実の世界はもっとまともな場所だってことになるからね。でも残念ながらそうじゃない。マイクと話してたんだよ、次のアルバムでは俺たちが心身ともに健康で、死ぬほど金を持ってて、何ひとつ問題のないユートピアに生きてる様子を描こうってさ。『宇宙家族ジェットソン』みたいな感じだよ。黒人も登場するってとこは違うけどね(笑)。

エゴイスティックだと思われたくないけど、俺たちのレコードは未来を予想してるんじゃないかって思い始めてるんだよ。今の状況じゃそれも無理はないだろ? だから次のアルバムでは、俺の身長が5センチ伸びてて、グラミーをいくつか獲ってるっていう設定にするつもりさ。

Translated by Masaaki Yoshida

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