ラン・ザ・ジュエルズが語る「クソみたいな世界」への回答、前進のサウンドトラック

自分がシェルターにいると思うなら、そいつは大間違いだ

ー「Pulling the Pin」と「A Few Words for the Firing Squad」のワンツーパンチでアルバムの幕を閉じるというのは、最初から決まっていたのでしょうか?


El-P:あの2曲の収まりどころは、他には考えられなかった。アルバムの最初の6曲は、どう並べれば一番効果的か考えたけど、「Pulling the Pin」と「A Few Words for the Firing Squad」の並びはガチだった。あの2曲は続けて聴いてこそ、あるべきカタルシスが得られるんだ。



キラー・マイク:俺たちは曲順にものすごくこだわるんだ。アイス・キューブとチャック・Dのようにね。

ーそれはどういう意味ですか?

キラー・マイク:最近知ったんだけど、アイス・キューブは『AmeriKKKa’s Most Wanted』の制作中に、チャック・Dから曲順の大切さについて教わったらしいんだ。彼のレコードは映画のようにドラマチックだけど、曲順はその重要な要素だ。Elはその点で天才的だと思う。

El-P:ちょっと持ち上げすぎだけどね。レコードに自然なフローを生み出すっていうのは、プロデューサーとしてそれなりに経験を積んできた俺が身につけたスキルのひとつなんだ。でもこのレコードでは、曲自体が収まるべき位置を指定してる感じだった。



ー「Pulling the Pin」の構成について聞かせてください。冒頭では社会全体を支配する歪んだシステムについて言及していますが、視点はその影響を受ける1人の人物へと移行していきます。歴史上の出来事を個人の物語に置き換えるかのような、マクロとマイクロを使い分けたストーリーテリングが印象的です。

El-P:それって、俺たちがクリエイティブにコラボレートするための鍵なんだよ。まさに君の言った通りさ。「Early」でも同じ手法が使われてる。視点を変えても本質は同じだっていう認識の共有は、俺とマイクのタッグを成立させてる要素のひとつなんだ。それぞれの傾向みたいなものを、俺たちはお互いに理解してるからね。俺は物事をマクロな視点で捉えるのが得意で、「Pulling the Pin」では悪という存在を簡潔に表現しようとしてる。今俺たちが向き合ってるそれは、鉄が発明された頃に人々が直面したものと同じなんだ。映画によくあるけど、宇宙空間から見た地球の俯瞰からズームしていくみたいな感じで、マイクのヴァースに行き着いた頃には、視点がストリートや家庭に移ってるんだ。俺が描いた大きなコンセプトに、マイクはリアリティを持たせることができる。俺の考えを彼が補完してくれるんだよ。その逆もまた然りであってくれるといいんだけどね。

キラー・マイク:その通りさ。間違いなくね。アメリカという国に奉仕している人の多くは、問題から頑なに目をそらし続けている。Elはそういうメカニズムを指摘するだけじゃなく、それが俺のような一般市民が属するコミュニティにどういう影響を与えているのかを伝えようとしてる。自分には無関係だとたかをくくるのは簡単さ。だけど俺たちが言わんとしてることは、俺たち全員に関係のあることなんだよ。

俺にとってラン・ザ・ジュエルズの魅力のひとつは、自分が限りなくブラックになれるってことなんだ(笑)。Elはより大きなコミュニティに語りかけつつ、俺が自分自身の物語にフォーカスできる場を用意してくれる。こないだベッドの端に座ってスカーフェイスを聴いてたんだけど、多くのラインが大衆の考えを代弁していて驚かされた。俺は常に、できるだけパーソナルであろうと努めてる。システムがどう機能して、それがどんな問題を引き起こすのかを理解できる人ばかりじゃないからね。アメリカじゃ一生懸命働く人は報われる、俺たちはそう教えられてきた。でもそれがまるっきり真実ってわけじゃないことが、次第に明らかになってくる。この世の中には、誰かを意図的に押さえつけようとしているやつらがいる。俺は30年間、そういうことを俺たちのコミュニティに知ってもらおうと努めてきたけど、身近なケースを挙げるのが一番効果的だって学んだんだ。社会体制の話にピンとこない人でも、「ある男の話だ」みたいな切り口だと、それが自分のことなんだって理解できるんだよ。

El-P:俺はこのレコードの一部で、ある問題の影響をモロに受けてる人々の苦悩を、それが自分とは無関係だって考えてる人々に伝えようとしてる。シンパシーを感じない人々に、誰かの苦しみについて心を痛めることは当然なんだって刷り込もうとしてるのさ。それが自分と無関係じゃなく、怒って当然なんだってことをね。これは対岸の火事じゃなく、お前んとこにも飛び火してくるんだって伝えようとしてるんだ。自分がシェルターの中にいると思ってるなら、そいつは大間違いだからな。

「Walking in the Snow」では、まさにそういうことを言わんとしてる。どんなにシンパシーに乏しいやつでも、ここまでハードルを下げりゃわかるだろって感じで、俺はこんなふうに切り出す。「お前が他人のことなんてどうでもいいって思うなら、お前にとってどうでもいい人々が刑務所から出所したあと、その牢屋はどんな風に使われるべきだと思うんだ? 囚人がいなくなったことを祝うパーティーを開いた後、その牢屋は用済みだとして解体すべきだと思うのか? 『ミッション完了!』とか言ってさ」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE