ラン・ザ・ジュエルズが語る「クソみたいな世界」への回答、前進のサウンドトラック

ラン・ザ・ジュエルズ、無敵の化学反応

ーマイク、あなたはEl-Pの作曲における構成力を讃えた上で、自分自身は思いつくままに言葉を紡ぐことが多いと話していました。10年間一緒にやってきて、スタイルの違いが自分の作風にどういった影響を及ぼしたと思いますか?

キラー・マイク:俺は南部のペンテコステ派教会で育ったんだけど、そこでは教会という場を通じて何かについて閃くことを「聖なる魂の捕獲」って呼んでた。俺のアプローチについて説明する場合、感覚的にはそれが一番ピンと来るんだ。2時間くらい何をするでもなく、ただクサを吸いながらダベってる時に、急に何かが閃いたりするんだよ。文字通り何かが俺に呼びかけるような感じで、声が頭の中ではっきりと聞こえるんだ。それはレコーディングブースに入れっていう啓示なんだよ。いつでもレコーディングできるよう、俺たちのスタジオでは常にマイクがセットされてる。その場で形にする機会を逃してしまうと、その閃きはもう戻ってこないからだ。

前作の制作中、リリックを紙に書いてるところをElに見られたんだけど、今作では俺があまりに延々と書いてたから「おい、その辺でやめとけ」って言われたよ(笑)。紙に書くっていうのは、俺にとって大事なことなんだ。曲で使うどうかはさておき、自分の考えてることを文字にするっていう行為そのものに意味がある。俺が何かを書いてるのを見かけるたびに、Elは「何やってんだ?」って訝しがってるよ。

El-P:マイクと10年間一緒にやってきたけど、(冗談っぽく厳格な声で)俺はプロデューサーとして……。

キラー・マイク:(笑いながら)初めのうちはそんな感じだったよな。

El-P:マイクにこう言われたんだ。「俺はプロデュースされる側でありたい。俺たちのやり方を理解してくれる誰かと仕事がしたい」ってね。彼と一緒にやってきて発見したマジックのひとつは、何かに対する価値観が違っていても、いつも自然とまとまってくってことだった。だから彼がリリックを紙に書いてるのを見ても、それは良くないなんて口出ししたりしない。それが彼のやり方だってわかってるからね。

もし違ってたら正してもらいたいんだけど、インスピレーションの訪れを待ってるマイクは、時々苛立ってるように見えるんだ。早く録りたくてウズウズしてるっていうかさ。いいパフォーマンスをするにはそのインスピレーションが必要だってことを、マイクはよく知ってるんだ。「まだやって来ない、もう少し粘らせてくれ」みたいな時があるんだよ。

キラー・マイク:その通りさ。100パーセント合ってるよ。

El-P:異なるテクニックを認め合うことが、お互いの引き出しを増やすことに繋がってるんだ。ルーズにやるってことの意義を、俺は彼から学んだ。作曲の面では、俺はすごくかっちりしたタイプなんだ。何時間も机に向かい、タイプした内容を何度も見直し、それがどう鳴るのかを頭の中でイメージし、納得するまで手を加え続ける。でももっとルーズにやることで生まれる魅力があるってことを、俺はマイクから教わった。その逆も然りで、マイクは10年前と比べると積極的にエディットするようになった。インスピレーションが訪れた時に一気に録るっていうやり方は変わってないけど、最近は録ったやつを聴き返しながら少し手直ししたりしてる。お互いのテクニックがそれぞれのスタイルを補完してるんだよ。

キラー・マイク:俺のアプローチの利点の一つは、様々なスタイルをスムーズに行き来できるってことなんだ。俺は4小節にこだわらないし、6も8も12も使う。「JU$T」なんかはいい例で、あれだけのリリックを本物のサザンスタイルでラップできる奴はそうはいない。あの曲は本質的に、たった2つのラインしかないんだ。「マリファナを売ってる企業を信用するか?/お前の国を仕切ってるのはカジノのオーナー」カデンツもサウンドも、この2ラインは紛れもなく南部のクラブミュージックだ。ミーゴスやロード・インファマスが売りにしてる吃るパターンを、俺は何年も前からやってた。すごく美しいパターンだけど、曲とマッチしなかったら、あれってレイジーに聞こえてしまうんだよ。ビートに寄りかかってるような感じさ。

でもこのライン自体はマッチしてるって感じてた。富豪ぶりを見せつけるようなやり方じゃなく、ラン・ザ・ジュエルズに相応しいリリックに仕上げるってことにやりがいを見出したんだ。さっき言ったことと矛盾するんだけど、曲のリズムを正確に理解したら、例のパターンが実はマッチするかもって思った。実際に録ってみると、それは確信に変わった。あれはサザンスタイルのフロウへのトリビュートでありながら、重要なメッセージを宿してもいる。リズムを掴むまでには時間がかかったし、そこから組み立てていくのも大変だった。辛抱してくれたElに感謝してるよ。



ー本作は4月に発表される予定でしたが、結果的に世界がマイクのいう「我慢の限界」に達した時にリリースされることになりました。このタイミングで作品を出すことについて、どのように感じていますか?

El-P:何もかもが停止して、レコードのリリースを延期するしかないってわかった時、レーベルからはこう訊かれたよ。「事態が収まって、ツアーに出られるようになるまで待つか?」ってね。宣伝もロクに出来ない状況でレコードを出さなくちゃいけない状況なんて、まさに前代未聞だもんな。

キラー・マイク:「セールスを考慮するなら待ったほうがいい」って言われたよ。

El-P:実のところ、俺たちに迷いは微塵もなかった。「むしろ、可能ならリリースを数日前倒ししたい」って申し出たんだ。今の俺たちにはそういう決定権がほとんど与えられてないからこそ、これはチャンスだって思った。それが吉と出るか凶と出るかはわからないけど、とどのつまり、そんなことはどうだっていいんだよ。俺たちにとってもリスナーにとっても、あの作品はあのタイミングでリリースされるべきだったんだ。

言うまでもないだろうけど、ラン・ザ・ジュエルズは計算に基づいて動くグループじゃない。これまでに出したアルバムだって、元々何かしらのプランがあったわけじゃない。いつも俺たち2人の気分次第だったんだよ、「もう一回やってみるか?」って感じでね。何か意味のあるものを発信できるって感じたら作品を出し、あとはそれが届くよう願うだけさ。

キラー・マイク:このレコードが発表されてから、街中で何度も声をかけられたよ。俺たちはいつでも、彼らの声に耳を傾けてる。ジョージ・フロイドとブレオナ・テイラーという、2人の黒人が立て続けに殺されてしまったことを受けて、アトランタの活動家たちは団結して、大々的な抗議活動を始めた。つい昨日話した活動家の1人はこう言ってくれたんだ、「お前らの新しいレコードは、今の俺の気持ちをそのまんま代弁してくれてる」ってね。今は世界全体がA&Rになってるような状況で、あのアルバムが前進のためのサウンドトラックになってるんだ。彼らはあのレコードのエネルギーを必要としてたし、そういうものを備えた音楽を届けられたことをすごく嬉しく思ってる。そして何より、こんなにドープなラップグループにいられることに、俺は心の底から感謝してるんだ。



ラン・ザ・ジュエルズ
『RTJ4』
発売中

Translated by Masaaki Yoshida

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