ビートルズと奴隷貿易商、港町の通りにまつわる論争

最も大きな問題はペニー・レインの名前の由来を検証できないこと

結論から言えばリバプール市内の通りの名称は一切変更されていない。その代わり、通りの名称の歴史を説明した案内板が設置された。とは言え、国際奴隷博物館は、未だに奴隷貿易商と関わりのある通りの展示物にペニー・レインを含めている。ペニー・レインにまつわるこの論争が再び持ち上がったことにより、同博物館はこの件の調査をしないわけには行かなくなっている。これはベッドフォードも、世界中のビートルズ・ファンも喜ぶ結果となった。

6月9日、ミュージアムズ&パーティシペーション理事ジャネット・ダグデールが、ペニー・レインと奴隷貿易には一切の関わりがないと断言する声明を投稿した。その声明は「リバプールの奴隷歴史研究家ローレンス・ウエストガフ、当団体の奴隷歴史の名誉保管者(元マージーサイド海事博物館館長)のトニー・ティブルズ、歴史研究家でブロガーのグレン・ハントリーたちと話し合った結果、これまで私たちが行なった総合的な調査を鑑みて、ペニー・レインとジェームズ・ペニーの関連性を示す歴史的な証拠は皆無という結論に至った。そのため、独自の再調査を延長し、参加型のプロジェクトを立ち上げて、対話型ディスプレイを刷新していくことにする」と書かれていた。

わかりやすく言うと、奴隷貿易に由来する通りの名前の展示からペニー・レインの道路標識が外されるということだ。「国際奴隷博物館が歴史調査を見直して、ペニー・レインとジェームズ・ペニーは無関係という私たちの主張を受け入れた勇気を讃えたい」と言って、ベッドフォードは「これでビートルズ・ファンも地元の旅行関係者も安堵するだろうが、その一方で奴隷博物館が今後も素晴らしい歴史教育を提供できることを実証したと言える」と続けた。

リバプールとその歴史が新たに注目を浴びたことで、良い影響が現れているらしい。リバプール市議会の通信部門長マイク・ドランは「これは今でも建設的な論争の種となっていて、市長(ジョー・アンダーソン)が人種的な不平等に取り組むことを発表しました。1月以降、特別委員会を設立して、市としてどのように奴隷貿易との関連性と取り組むべきかを検討しています。(ペニー・レイン問題は)ビートルズという存在のおかげで、世界的、国内的な関心を集めましたが、この論争がきっかけで、人々はリバプールについて知っていること、知らないこと、リバプールと奴隷貿易の関連性を再び調べるようになったのです」と語った。

ダグデールもこの事実を自身の声明の中に反映させている。「リバプール国立美術館では、このテーマの内容が辛いものであっても、討論や話し合いを歓迎する。パブリック・ヒストリーとの関わりは私たちに強い目的意識を与えるもので、論争を反映させ、検証し、対応する安全な場所としての役割を果たすことが美術館や博物館の社会的意義での一つなのだ」と。

ただし、ペニー・レインがペニー・レインと呼ばれる所以は相変わらず謎に包まれている。「最も大きな問題はペニー・レインの名前の由来を検証できないことです。歴史研究ではよくあることなのですが、これほど昔に遡ると、つまり200年、300年前のことになると記録がほとんどないため、どんな疑問であっても確実な答えを得ることは不可能です。そもそも、田舎の農道にあの名前を与えた理由など、記録を取る人がいるはずもないじゃないですか」とマクドナルドが教えてくれた。

Translated by Miki Nakayama

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