米政府がTikTok使用禁止を検討、音楽関係者「最悪な状況になる」

TikTokに対する米政府の懸念は、決して突然生じたものではない。同アプリのデータプラクティスと中国とのつながりは、バイトダンスが動画共有サービスMusical.lyを買収し、2018年にTikTokとして再ローンチして以来、米政府が疑問視し続けてきた問題だ。

はやくも2019年1月には、国際経済問題について分析・政策提言を行う米シンクタンクのピーターソン国際経済研究所は、「The Growing Popularity of Chinese Social Media Outside China Poses New Risks in the West(中国製SNSメディアの中国国外での人気増加に伴う欧米への危険性)」と題したレポートのなかであからさまにTikTokに言及している。2019年2月にTikTokは、同アプリが「児童の個人情報を違法に収集していた」と主張する米連邦取引委員会と和解するため、570万ドル(約6億3000万円)の罰金を払っている。2019年の終わりには、共和党のマルコ・ルビオ上院議員が対米外国投資委員会に対してTikTokの調査を要請した。民主党のチャック・シューマーや共和党のトム・コットンといった上院議員も党の垣根を超えて米国家情報長官に類似の要請をしている。それに伴い、米陸海軍は兵士と船員のTikTok使用を禁止した。

だが、音楽業界はこうした危険に目をつぶり、楽観視を続けた。なぜなら、TikTokが次々とヒット曲を量産してくれたから。とはいっても、すべての人がこのアプリに夢中になったわけではない。あくまでオフレコの話としてだが、アーティスト&レパートリー担当者たちはTikTokに対するレーベルの執着は、アーティストのメリットという観点ではわずか、あるいはまったく意味のない、ワイルドで馬鹿げたバブル市場を生むと喜んで指摘するだろう。レコード会社はTikTok内で動いているあらゆるものを追いかける。彼らは、どうにかして注目してもらおうとあの手この手でくだらない仕掛けを披露するユーザーの投稿だって何も考えずに追うのだ。「人々は、サウンドエフェクトのために大金を注いでいるのです」とあるレーベル幹部は不満を口にした。

ストリーミング市場のシェアを増やす——これこそがレーベルの主な関心事である。ストリーミング市場は収益源であるからこそ、知名度がぼほゼロでもTikTokでブレイクしたアーティストにレーベルが膨大なキャッシュを与えることも少なくない。「私が見てきた限り、TikTokで少し動きのあるユーザー(その子のInstagramフォロワーはたった6000人ですが)に対して提示された金額は、実に馬鹿げています」とアーティスト・デベロプメント・コレクティブのdrtymndの創業者兼CEOを務めるカヨーデ・バドマス・ウェリントン氏は語った。ウェリントン氏は、エピック・レコードやPulse Music Groupで働いた経歴の持ち主だ。「TikTokで5000回再生される歌付き動画が200万ドルの契約をとりつけるのです」と同氏は語る。全体的に見ると、手軽な成功を追い求めるのは向こう見ずに感じられるだけでなく、実際には無謀でもある。

・元ディズニーの幹部、TikTokのCEOに就任

しかし、しかるべき人の手に渡れば、TikTokは統合によって狭き門となった音楽業界——2020年だというのに、マスに届けるべきアーティストが誰かをごく少数の“門番たち”が決めているような業界——の門戸を広げられる。同アプリは「ラジオでオンエアしてもらい、ビジネスとして成功するには膨大な予算が必要とされる旧体制から権力を奪った」とマーケティングとマネージメントを行うATGの創業者、オミッド・ヌーリ氏は述べた。

Translated by Shoko Natori

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