著名アーティストのエンジニアが語る「仕事のない生活」

今は「待つ」というゲームの最中

多くのライブ・ミュージックのスペシャリスト同様に、ブラックウェルもフリーランスで仕事を受けており、収入のほとんどを数週間や数カ月単位で行われるツアーに頼っている。そのため、コンサートの中止が続く間も何らかの収入を得るために、外出禁止期間中に株取引も始めた。様々な株券のスイングトレードとデイトレードで、ツアー中に得る週給の半分に相当する利益を得ていると言う。

ブラックウェルは「まだ初心者だけど、少なくとも何らかの収益になるし、何もないよりもマシだ。株取引で週給の半分かそれより少し多いくらいの利益を今後も得られたら、それで生活費はまかなえるので、貯金を取り崩す必要がなくなるんだ。ただね、株取引にはリスクが伴うし、特に今は株式市場が不安定だからね」と述べた。

ブラックウェルには先を見越して数年間かけて蓄えてきた貯金があったため、今回の出来事にもパニックを起こさずに済んだが、彼よりも若いエンジニアや資金的な余裕のない同期のエンジニアたちは業界を去らざるを得なかった。まだCOVID-19のワクチンの完成が見えないため、ツアー・スタッフとして仕事をしている人々は戦々恐々としている。次の仕事まで何週間、何カ月、何年待つのか予測できないのだ。

ニュージャージー出身のブラックウェルはポジティヴな気持ちでいたいと言う。彼自身が最も驚いている新たな活動は何といっても児童書籍の執筆だ。これはライブ・ミュージック業界を描いたもので、彼の婚約者の発案だ。

笑いをこらえながら「ちょっと作家の真似事をしているだけだよ」とブラックウェル。「以前の僕には頭をよぎることすらなかったクリエイティヴな方面に突入している感じだね」と。

子どもたちは音楽を聴いたり、学んだりするのが大好きだが、彼らは素晴らしいライブがどんなふうに出来上がるのかを知らないと彼は指摘する。「子どもたちは会場に行って、ライブを観て、あとは帰宅するだけなんだ。ほんと、それだけ。ライブ・ミュージックの仕事が何か知らなければ、彼らはサウンド・エンジニアの存在すら知らないわけだよ。実際、子どもの頃の僕だって知らなかった。でも、あの頃もう少し知っていたら、もっと早い段階でこの仕事に興味を持っていたと思うんだ」と説明した。この本がきっかけでライブ・ミュージックの仕事に興味を持つ子どもが増えることを彼は願っているのだ。また、ツアーの仕事をしている親を持つ子どもたちが親の仕事を理解する助けとなると期待する。

「本を書くなんて一度も考えたことがなかったけど、今の僕たちには時間だけはたっぷりある。やらない手はないだろう?」と、ブラックウェルは楽観的な態度を保ったまま、すべての状況が整った時にツアーが完全復活すると信じている。今は「待つ」というゲームの最中だと。

Translated by Miki Nakayama

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