PANTAと鈴木慶一が語る頭脳警察の50年と事件の真相、ロックの未来

二人の「お見合い」とPANTA & HALを振り返る

ー慶一さんとPANTAさんの交流に話を戻すと、1978年に慶一さんがPANTA & HALのアルバム『マラッカ』(1979年)のプロデュースしたことが、二人の交流の始まりだったとか。当時、異色の組み合わせで話題になりましたが、どういう経緯だったのでしょうか。

PANTA「平田国二郎っていうのがいたんですよ。当時、ビクターが鳴り物入りでクライング・ドックっていうロック・レーベルを立ち上げたばっかりで、その時にミュージック・マガジンから引っこ抜かれた彼が『鈴木慶一とPANTAは絶対にあう!』って言って」

ーその平田さんの仲介で一緒にやることになった?

PANTA「ビクターの青山スタジオから原宿へ向かうオシャレな道があるわけですよ。そこにまたオシャレな店があって(笑)」

鈴木「カフェバーの走りね」

PANTA「そこに行ったわけです。そしたら南佳孝とかがいて」

鈴木「いろんな人がいたよ、あそこには」

PANTA「普段、俺たちの界隈にはいない人種がね。そこで慶一とテーブルを同じくした」

鈴木「会うまではいろんなことを考えて不安だったけど、1時間くらいでPANTAのイメージが変わったね。会ってすぐに『PANTAだって、笑うんだ』って思ったりして(笑)」

PANTA「平田の言う通り、ほんとに話があった。音楽にしても趣味にしてもセンスがあうんだわ。それまで俺の界隈にいたやつとはできなかった話ができた」

Photo by Hana Yamamoto

ーお見合い成功ですね。慶一さんにとって『マラッカ』は初めてのプロデュース作でしたが、随分大変だったとか。

鈴木「PANTA & HALのサウンドって完全に出来上がってたんだよ。そこに『今』を感じさせるもの。ニュー・ウェイヴ的なるものを、ちょこっとはふりかけようと思ったんだけど……」

ーそういう方向性はPANTAさんと同意の上で?

PANTA「全部、慶一にお任せ。ニュー・ウェイヴに関しては違和感なかった。テクノにはついていけないところはあったけどね。でも、それ以上にフュージョンが大嫌いだったんだよ。あの当時はフュージョンの嵐だった。フュージョンが嫌い、という点では慶一と意見が一致した」

鈴木「それでPANTA & HALのフュージョン色を削っていった。ギターの絡み方とかね」


PANTA & HAL『マラッカ』のタイトル曲

ーバンドの抵抗はありました?

鈴木「そりゃ、大変だったよ(笑)。プロデュースをするのは初めてだし、しかも、これまで会ったことがない人たちだから」

PANTA「俺と慶一はツーカーでわかるんだけど、メンバーには色々説明しないと伝わらないんだよ。あえて説明しないこともあるけどね。面倒臭くて『黙ってやれ!』っていうこともあった」

鈴木「横でみてたら、説得してるな、というのはわかるんだけど、PANTAは私がやることに一切口を出さないんだよ。そうすることで、プロデューサーをプロデュースしていたのかもしれないけど(笑)」

PANTA「よくプロデューサーと喧嘩するバンドがいるけど、なんのためのプロデューサーなんだよ?って思うよ。自分たちにないものを引き出してもらうためのプロデューサーだろって。だから、どんな若造だろうがプロデューサーに信頼を置かなきゃ意味がない」

鈴木「おかげで私は胃に穴が空いて難聴にもなった(笑)」

ーでも、その甲斐があって『マラッカ』は名作に仕上がりましたよね。そして、次作『1980X』(1980年)も慶一さんがプロデュースを手掛けて、さらにニュー・ウェイヴ色が強くなります。

PANTA「このアルバムは、思いきり慶一色を出せたんじゃないの?」

鈴木「それはなぜかというと、『マラッカ』の時は曲のアレンジがほとんど固まっていた。その固まったアレンジからフュージョン色をちょっとずつ抜いてニュー・ウェイヴ色を足していったわけだよ。バンド・アンサンブルは壊さないよう注意深く。『1980X』はゼロからスタートなんで色が出しやすかった。ギター2本のアンサンブルもいちから作れたし非常に面白かったな」


PANTA & HAL『1980X』収録の「オートバイ」

PANTA「『オートバイ』って曲なんて面白かったよ。俺はバイクが心底好きだから俺が書かないほうがいいと思って、慶一にバイクのイメージで曲を書いてもらったの。そしたら、『オートバイ』っていうそのままのタイトルで曲を書いてきた。今時、『オートバイ』なんていうやついないよ!って」

鈴木「力道山の時代じゃないんだからってね(笑)。私はあれはマンディアルグの小説『オートバイ』のイメージで書いたんだよ。マリアンヌ・フェイスフルの映画『あの胸にもう一度』の原作のね」

PANTA「それで夜中に慶一から電話がかかってくるんだよ。『オートバイのギアってなんて言うの?』って」

鈴木「だって、こっちは乗ったことないから(笑)。ビーチ・ボーイズの曲に、ファースト・ギア、セカンド・ギア、サード・ギアって出てくる曲があるでしょ?(「リトル・ホンダ」) あれもバイクの歌だけど、で、どうなんだろうと思ったんだよ」

ーその時はもう、バンド・メンバーの反発みたいなのものはなかったんですか?

鈴木「メンバーに『髪の毛を切れ』って言ったのは根に持たれてるかもしれない(笑)」

ームーンライダーズもニュー・ウェイヴに飛び込んだ時は、まず髪型変えましたもんね(笑)。

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