テイラー・スウィフト『フォークロア』を考察「殻を破り、悲痛さを露わにした最高傑作」

幾重にも折り重なった、深みのあるストーリーテリング

『フォークロア』は、生まれ変わったスウィフトのデビューアルバムのように感じられる。隙がまるでない全17曲で描かれる物語はスケール感を増し、そこに登場するキャラクターたちは実に多様だ。それでも、彼女が10年前に発表した「ラスト・キス」とこれらの楽曲には確かに接点がある。隔離生活の中で彼女が経験した心境の変化は、本作の歌詞にはっきりと表れている。「状況に適応しようともがいてる/誇りにしてた光り輝く車輪は錆び始めてる/あなたが私の帰りを待っているとは思わなかった/そのことはすごく後悔しているの」彼女の心が紡いだ言葉は力強く響く。

幸せな私生活が彼女から想像力を奪ってしまうのではないかというファンの懸念は、今となっては馬鹿げたことに思える。そんなはずはないのだから。今作で描かれるキャラクターたちの多彩さは、実際にはむしろその逆だったことを証明している。町中の人々から嫌われるスキャンダラスな老いた未亡人、怯える7歳の少女とトラウマを抱えた親友、葬式で敵を見つめる亡霊、リハビリに励む依存症患者、不器用な10代の男の子等の目線で語られる物語はリアリティに満ちている。ハイライトの3曲(「Cardigan」「August」「Betty」)では、同一の三角関係が曲ごとに異なる視点で描かれており、「The 1」「Peace」「Invisible Stings」「The Lakes」等はどんなストーリーにも裏表が存在することを示している。



『フォークロア』の見所のひとつは、中盤に立て続けに配置された屈指の3曲だ。アルバム中最も痛々しくも美しいバラード「August」では、実らなかった一夏のロマンスが描かれる。「私たちはベッドのシーツに包まって身を寄せ合った/8月はボトルのワインのように過ぎ去ってしまった/あなたは決して私に心を開いてくれなかったから」。痛ましくもウィットに富んだ「This Is Me Trying」は、ウィスキーに溺れる日々に終止符を打つべく悲痛な胸の内を明かす女性の物語だ。そして「Illicit Affairs」では、これまでにも度々登場している不貞というテーマをより掘り下げている。「その言葉は額面通りに受け取って/冷めていく移ろいがちな恍惚感/数百回もすれば効き目がなくなってしまうドラッグ」。張り詰めた緊張感を爆発させるかのように、彼女はこう歌い上げる。「電話してこないで/ベイビーなんて呼ばないで/分からないの あなたのせいで私がどれほど苦しんでいるのか」

幾重にも折り重なったこれらの物語の真意を汲み取るには何週間も、あるいは何十年もかかるのかもしれない。「Mirrorball」は6年前の「ニュー・ロマンティックス」に登場したダンスフロアで注目を浴びるナーバスな気取り屋を彷彿とさせるが、この曲で歌われているのは誰もが身に覚えのある不安な思いだ。「Mad Woman」における魔女狩りというトピックは過去にも見られたが、同曲には「ザ・マン」で歌ったフェミニストの怒りをより研ぎ澄ましたかのような迫力がある。「The Last Great American Dynasty」における「町で一番不遜な女性のお出ましよ/何もかも滅茶苦茶にして最高にいい気分だったわ」というラインは、「スターライト」の貴族階級バージョンというべき皮肉に満ちている。(テイラーはキャリアを通して「marvelous」という言葉を2度用いているが、どちらの曲もケネディ家について歌っているように思われる。あらかじめ8年先を見据えていたかのような、彼女のディティールに対するこだわりには驚かされる)

Translated by Masaaki Yoshida

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