関係者が今こそ明かす、ワン・ダイレクションが21世紀最大のボーイズバンドになった理由

5人の奇跡、それは音楽を愛していたこと

とはいえゼインの脱退は、指を1本切り落とされたような状態だった、とブネッタ。ワン・ダイレクションがスタジアムツアーを続行し、次のアルバム『メイド・イン・ザ・A.M.』に取り掛かる中、ハリーもナイルもリアムもルイも何とか気持ちを立て直そうと必死だったそうだ。バンド内の緊張状態が『FOUR/ フォー』の楽曲にそこはかとなく漂っていたように、ゼインの脱退は『メイド・イン・ザ・A.M.』にも影を落とした。あからさまな悪意はみじんもないが、ブネッタいわく、「ドラッグ・ミー・ダウン」のような楽曲には立ち直ろうと必死な様子が伺える。ゼインの正真正銘のファルセットさえあれば、ナイルもこの曲で声の限りに高音域を出す必要はなかっただろう。

だが『メイド・イン・ザ・A.M.』はそうした衝撃にも動じなかった。ブネッタとライアンは決定的な1曲として「オリビア」を挙げる。ソングライターとしてワン・ダイレクションの成長ぶりをうかがわせる1曲だ。彼らは1日かけて出来の悪い代物をこねくり回した挙句、翌日にこの曲をたった45分で仕上げたのだ。




「作曲を始めた最初のころは、書くものと言えばくだらない曲ばかり。それからだんたん上達して、それがずっと続いていくんだ」とライアン。「でもそのうち凝り性になって、『ここの歌詞はもうちょっと工夫したほうがいいかも』なんて言い出す。『メイド・イン・ザ・A.M.』を制作するころには、彼らも自分なりのやり方を身に着けて、ギターを手につま弾いては、何かひらめく、という感じだった。『どうすればこれがうまくハマるか?』と悩むんじゃなくてね」

ブネッタとライアンが言うには、ゼインの脱退の後、『メイド・イン・ザ・A.M.』がワン・ダイレクションの最後のアルバムになり、無期限の活動休止に入ることが明白になったという。アルバムははっきりと終焉を告げていたが、ワン・ダイレクションのおかげで、その終止符には永久不滅の感覚も漂っている。それこそが、アルバムの最後の曲「ヒストリー」で、彼らがファンに残した最後のメッセージだ。「ベイビー、分からないかい?/僕らは永遠に生き続けるんだ」



ある意味、『メイド・イン・ザ・A.M.』はワン・ダイレクションという存在そのものだ。グループとしてのワン・ダイレクションではなく、彼らが5年間曲を書き続けてきた1人1人のファンにとってのワン・ダイレクション。活動休止から4年間、結成から10年間、ファンはワン・ダイレクションの永遠のレガシーとして存在し続ける。ライアンも指摘するように、メンバー5人全員がソロとして活動を続けているにもかかわらず、ありとあらゆる再結成のうわさ――Zoomのような小規模のものも含め――はいまだインターネットをにぎわせている。昔の楽曲もいまだ色あせない。カール・フォークの9歳の息子も、1Dの楽曲に合わせてTikTok動画を作るのにはまっているそうだ。

ワン・ダイレクションのファン層、業績、影響力を数値で測る方法はごまんとある。確実な数字――アルバムセールスやコンサートチケットの売上枚数――はそれ自体圧倒的だが、数で表せないものほど面白いのが世の常だ。ワン・ダイレクションがあれほど素晴らしいバンドだったからこそ、とあるファンは冗談半分、だが半ば本気で、彼らのレコード契約を買い取って彼らに制作の全権限を与えようと考え、GoFundMeを立ち上げた。ワン・ダイレクションがあれほど素晴らしいバンドだったからこそ、コテチャやフォークら作曲家たちは今でも――アリアナ・グランデやザ・ウィークエンド、ニッキー・ミナージュと組んでヒット曲を世に送り出し続けている今でも――彼らとこんな曲が作れたのに、と思いをはせる。ワン・ダイレクションがあれほど素晴らしいバンドだったからこそ、ミツキが「ファイアプルーフ」をカバーする

だがおそらく最終的に行きつくところは、もっとも筆舌に絶するもの、つまり偶然だ。コテチャは『Xファクター』のようなオーディション番組での成功を、ある朝目が覚めたらナイスバディになっているようなもの、と例える――だがそのあとは、そこに到達するまでの積み重ねがないままに、体型を維持するためにマックスでエクササイズをしなくてはならない。多くのアーティストが陥る罠だ。だがワン・ダイレクションはそれができただけでなく、自ら望んでそれをやってのけた。

「あの手の番組から出てきたアーティストの中でも、ここまで長く続いたのは彼らぐらいでしょう」とコテチャも言う。「巨大なポップスターがノンストップで活動するには、5年は長い期間です。大変だっただろうに、彼らはがむしゃらに打ち込んだ。彼らは自分が手にした幸運に感謝し、理解していたんです――知っての通り、彼らは今までずっと一度たりとも歩みを止めていないんですよ。彼らのほとんどは、こんな風になる以前は必ずしもミュージシャンではなかった。だけど音楽を愛していた。そしてモノづくりや作曲、演奏の楽しさを見出したんです。あの5人――無作為に選ばれた5人――が、まさかここまで成長するなんて。こんなことはもう二度と起こらないでしょうね」


●ワン・ダイレクション再結成の可能性は? メンバーの全発言を徹底検証


Translated by Akiko Kato

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